新聞と雑誌は似て非なるもの
情報編集のスキルがなく苦労したが、トライ&エラーを繰り返すなかで習得へ
――新聞社と出版社、同じく紙媒体のマスコミですが、入社されてからギャップは感じられましたか?
田中 新聞と雑誌では、作るうえでの考え方がまったく違うな、ということはすぐに気づかされました。新聞記者時代は、とにかく特ダネと言えるような情報をいち早く掴んで、新聞の1面、そうでなくとも、経済面や社会面のトップ記事として載せてもらうことに一番の価値を見出していました。
一方で雑誌は――すべての雑誌がそうだというわけではないでしょうが、少なくとも私の配属された『週刊ダイヤモンド』では、そこまで速報性に重きを置いていないように感じられました。そもそも、特ダネを掴んでも、新聞と違って、発行するまでに時間がかかるので、その間に“鮮度”は薄れてしまいます。それよりも取材したネタを独自の切り口で、わかりやすく、面白く読めるような特集にするための、発想力、企画力が必要だと痛感しました。常に読者を意識するという点でも、情報の“見せ方”に重点を置いている点でも、新聞と大きく違います。要するに、高い情報編集のスキルが求められたのです。
――情報編集というのは、膨大な情報の中から必要なものを抽出・整理し、自分なりの分析や見解を加えたうえでアウトプットすること、という定義になるでしょうか? 田中さんの場合、最初から情報編集のスキルが身に付いていましたか?
田中 いえいえ、最初は編集というものの醍醐味が全然わかりませんでした。雑誌の場合、編集の仕方が悪い特集を出すと、どんなに時間をかけて作り上げた労作でも、売り上げが伸びません。自分としてはいい出来だと思っても「売れ行きが悪い=他人から評価されていない」という証拠なので、しょせんは自己満足ということになります。特に自分で特集を切り盛りできる副編集長になってしばらくは、どうやったら売れる特集を作れるのかが本当にわからず、編集という作業の難しさに苦しめられる日々でした。トライ&エラーを繰り返すうちに少しずつ成功事例がついてきて、その過程で徐々に情報編集のスキルも身に付いていった感じです。
――一見すると、編集者という職業の人だけに必要な特殊スキルのようですが、情報が氾濫するこの時代に、情報を編集してアウトプットするという力があると、他業種でも役立ちそうですね。
田中 そう思います。昨今は、情報が増えて簡単に集めやすくなっているわりに、一つひとつの情報の価値自体は薄まっている印象があります。だからこそ、使える情報を“濾(こ)しとる”ためのフィルターが必要だと感じます。さらに、それを編集する力があれば、相手の心を掴むビジネス雑談ができるようになったり、その延長線上で、ビジネスの提案や創造までもできるようになったりするはずです。