2022年4月の新卒社員の入社から3カ月以上が経った。配属先も決まり、すでに組織の一員として活躍している新人も多いだろう。そうしたなか、「部下をどう教育したらいいのか分からない」「テレワークではなく、出社して、背中を見て覚えてほしい」といった管理職や「先輩社員や上司とのコミュニケーションの取り方がうまくできない」という新入社員の声を聞く。仕事は“教え方と学び方”が何よりも大切――企業・団体への数多くの研修を通じて、そのことを伝え続けている関根雅泰さん(株式会社ラーンウェル 代表取締役)に話を聞いた。(フリーライター 狩野南、ダイヤモンド社 人材開発編集部)
「相手は自分とは違う人」という認識を持つこと
「教える」「学ぶ」――これは、さまざまな企業のあらゆる職場で行われていることだ。しかし、管理職や人事担当者であっても、きちんとした「教え方」や「学び方」を学習した経験はほとんどないのではないか。「学び上手・教え上手を増やす」ことを目指し、企業や地域での人材育成事業に取り組んでいる関根さんは、日々、多くのビジネスパーソンに「教え方」「学び方」の研修を行っている。
関根 管理職をはじめとした先輩社員の方には「教え方」を、新入社員の方には「学び方」をお伝えしています。「教え方」には2種類あり、ひとつは管理職の方々を対象にした、部下や後輩に対する現場での一対一、一対複数への教え方。もうひとつは、人事や教育担当者の方々に向けた一対多で教える社内講師育成のための研修です。
私は、2006年に「教え上手になる! 教えと学びのワークブック」という書籍を出版したことをきっかけに「教え方を教える」ことを専門とするようになったのですが、「教え上手」というものに気づいたのは、実は研修参加の方々との対話からでした。
「教えるのが上手な人ってどんな人だと思いますか? 下手な人はどんな人ですか?」という問いを重ねていったところ、多くの人がイメージする「教え上手な人」像が、ほぼ一致していたのです。それは、どういう人か……一言で言えば、「相手本位な人」です。逆に、教え下手な人というのは、「自分本位な人」。自分がこの方法でできたから、相手に対しても「あなたもできるでしょう?」と、同じ目線で押し付けてしまい、相手に配慮することができないのです。教えるときには、「相手は自分とは違う人」という認識がまず大切です。
「教え上手」になるためには、「相手本位」を目指すことがファーストステップだと関根さんは言う。しかし、頭では分かっていても、その実践はなかなか難しい。教える側の管理職やビジネスパーソンは自分の仕事もあり、他の部下のケアもしなくてはならないなか、具体的にはどのようにしたらよいのだろう。
関根 「自分一人だけで教えない」ということが大切です。自分一人で教えようとするのではなく、周りをうまく巻き込むのです。
私の師匠である立教大学の中原淳教授は、人材育成には「経験」と「人々」の2つの軸があるとおっしゃっています。つまり、教える対象に「どんな経験を積ませるか」「どんな人と関わりを持たせるか」です。「相手本位に立つ」ことを優先して新入社員を育成するためには、その新人が関われる人を増やしてあげるべきです。
職場でありがちなのが、OJT担当(OJTトレーナー)や上司が忙しくて、新人が何も教わらずに放っておかれてしまうケースです。何をしていいか分からないままだと、仕事の経験は積めず、そのような場合に“周囲の力”が教える側の助けになります。自分が「新人にやってほしい仕事」プラス、他の社員からも「新人にやってほしい仕事」を挙げてもらうのです。たとえば、机の上の片付けや資料の整理など、誰かがやってくれたらうれしい仕事ってありますよね。雑用に近いものが多く、それらはOCB(Organizational Citizenship Behavior=組織市民行動)と呼ばれます。いろいろな人からヒアリングして作ったOCBリストがあれば、新人も空き時間を無駄にしないようになり、いろいろな人と関わりながら仕事の経験を積んでいくことができます。
関根雅泰 (せきねまさひろ)
株式会社ラーンウェル 代表取締役
1972年埼玉県鴻巣市生まれ。州立南ミシシッピー大学卒業。東京大学大学院 学際情報学府 修士号(学際情報学)取得。高校卒業後、アメリカに留学。国際関係学、文化人類学で優秀学生として卒業する。約6年間の留学中、学ぶことの楽しさを知ると同時に、日本の教育に問題意識を持つ。帰国後、学習教材の訪問販売会社での営業・教育担当、企業内教育研修会社での研修講師を経て、2005年に独立。「学び上手・教え上手」という観点から日本の教育に貢献すべく、株式会社ラーンウェルを設立。著書多数。共著としての最新刊に『研修開発入門 「研修評価」の教科書』(ダイヤモンド社)がある。