NYタイムズ紙で成田氏批判した筆者が
「不買運動」はやりすぎと感じるワケ
「正義の制裁が下された」とすがすがしい気持ちになっている人もいらっしゃるかもしれない。
3月13日、キリンビールは、経済学者・成田悠輔氏を起用した缶チューハイ「氷結無糖」のネット広告を取り下げたと公表した。同社の説明によれば、取り下げの理由のひとつは、「集団自決発言」だという。
成田氏は21年12月に出演したネット番組で、「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」と発言をして、1年ほど前には米・ニューヨーク・タイムズ紙にそれが取り上げられ、国際的な炎上となった過去がある。彼が広告に起用されてから、それが蒸し返されて、SNSではキリンの不買運動が呼びかけられる事態に発展していたのだ。
そのためネットやSNSでは「不買運動はそれほど効かないという話もあるが今回は大勝利だ」とお祭り騒ぎ。「そういえば、こいつも過去に問題発言をしていたぞ」なんて感じで、次なる不買運動のターゲットを探す向きもある。
そんな「不適切狩り」ともいうべきムードの盛り上がりを見ると、筆者は複雑な感情になる。実は成田氏の「集団自決発言」が海外でも注目を集めて「炎上」するきっかけとなったニューヨーク・タイムズ紙に、筆者は以下のように「批判コメント」を寄せているのだ。
なぜ同紙の取材を受けることになったのかというと、本連載の中で、《成田悠輔氏「高齢者は集団自決」発言を“例え話”と笑っていられない理由》(23年1月19日)という記事を書いており、それがニューヨーク・タイムズ記者の目に留まったからだ。
このような形で「集団自決発言」を批判していた私だが、今回の成田氏をめぐるSNS不買運動は「やりすぎ」だと思っている。発言への批判を超えて「排除」や「私刑」のレベルに到達しているからだ。
もっと言えば、目クソ鼻クソになっている。成田氏の広告起用をめぐってキリンを攻撃しているSNSの人たちと成田氏は、「社会の邪魔者」としている対象が違うだけで、基本的には同じようなことを主張しているのだ。