同じように才能があっても、チャンスをつかんで成功し続ける人とそうでない人がいる。その差は、「気づかい」にあるのかもしれない。話題のロングセラー『気づかいの壁』の中には、「気づかいの差」が「人生の差」を生むという話がある。一つひとつは小さなことだが、積み重ねることで大きな差が生まれるのは間違いないだろう。これまでおよそ200社、2万人のビジネスパーソンに向けてコミュニケーションスキル等の研修やセミナーを行ってきた著者、川原礼子氏は、サービスのプロではない一般のビジネスパーソンに向けて「ちょうど良い気づかい」のコツを教えてくれている。
本記事では、本書の内容から、なぜかチャンスをつかむ人がやっている気づかいのコツについて、5つピックアップして紹介する。(構成:小川晶子)
チャンスをつかみ続ける友人に秘訣を聞いてみた
筆者の友人のなかに、「どんどんとチャンスをつかんでいくタイプ」の人がいる。
競争率の高い人気職種のキップを手に入れ、良いポジションに次々と抜擢され、さらに世界的企業に引き抜かれて要職に就くことになった。
なぜ彼はそれほど、「抜擢される」のだろうか?
仕事ができるのは当然として、彼は「気づかい」がものすごかった。職場のメンバーが働きやすいように、元気が出るようにといつも声をかけ、差し入れをしたり、雑用を積極的に引き受けたりしていた。
初対面の人にもちょうどいい気づかいをするので、あっという間にみんな彼のファンになってしまう。そして、「一緒に仕事をするなら彼がいい」と思うのだろう。
これまで2万人のビジネスパーソンに研修やセミナーを行ってきた、コミュニケーションスキルの研修講師である川原礼子氏は、気づかいができる人になれば「『最後にチャンスを掴める』『また次の仕事をお願いされる』『なぜか運がいい』という人生を送れる」と述べている。
すごい実績の人や経験豊かな人でしょうか。
でも、失礼な発言をする可能性があったり、デリカシーがなかったりする人だったら、「あの人はちょっとやめとこうかな……」と躊躇すると思います。
それなら、「仕事を頑張っていて気が利く後輩」を連れていったほうがいいですよね。
その差は、日頃の「ちょっとしたこと」にあるのです。(P.20)
ちょっとしたことであっても、気づかいできる人は自然とチャンスが多くなっていくのだ。筆者は深く納得した。
人がストレスを感じる瞬間を押さえる
そうは言っても、どうすればいい気づかいができるかわからない。
そんな人のために、本書ではわかりやすく「5つのコツ」を教えてくれている。
その5つは「限定」「予告」「共有」「領土」「記憶」というキーワードで整理される。これらに通底するポイントは「人がストレスを感じる瞬間を押さえておく」ということだ。
ここでは、それぞれのカテゴリーの中から一つずつ、ぜひ取り入れたい「気づかいのコツ」をピックアップして紹介したい。
①限定のコツ:「大丈夫?」以外の声かけをする
新人に業務の進捗を確認しようと「大丈夫?」「あの仕事、大丈夫だよね?」と声をかけても、あまり意味がない。「いいえ、大丈夫じゃありません」とは言いにくいからだ。
そこで、「はい・いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンより、相手に話してもらうオープンクエスチョンで声がけをする。「どこまで進んだ?」「いま、どんなことやってるの?」などだ。
とはいえ、ぐいぐいと詰めるのではなく、あくまで一歩です。それがちょうどいい気づかいの距離です。(P.123)
②予告のコツ:「いまから電話いい?」と前もって伝える
現代のコミュニケーションツールはメールやチャット、SNSなどが中心で、電話で話をすることは少ない。だが、電話が最適な場面だってある。
文字では微妙なニュアンスが伝わらず、すれ違いを生んでしまいそうなときは電話がいい。ただ、急に電話がかかってくると驚いてしまう。
「少し電話で話したいんだけれど、15時ごろどう?」
と、一言伝えてください。
心の準備を相手にさせてあげる、大切な気づかいです。(P.148)
予告することは気づかいになるのだ。
③共有のコツ:仕事の目的を「見えるように」伝える
川原氏は毎年のように企業から「報連相(報告・連絡・相談)が定着しない」と相談を受けるという。解決策の一つには、報連相を受ける側が「話しかけるなオーラ」を出さないようにすることがある。
そしてもう一つがこれ。目的の共有である。仕事の目的がよくわかっておらず、ただ言われたからやっているというだけでは「作業」になってしまう。すると、報連相にもモチベーションがなくなる。
そうでなければ、仕事ではなく「作業」のままです。(P.192)
口頭だとすぐに忘れてしまうので、文書にして渡すと効果的だ。メールなどでもいい。
④領土のコツ:依頼メールに「断れる余白」を残す
断るのが苦手な人は多いだろう。でも、どんなに魅力的な依頼であっても、都合がつかないことはあるし、無理なものは無理だ。あまり熱烈な依頼文では、断る負担が大きくなってしまう。
もちろん、相手に許可や快諾をいただくことが目的ではあるが、「断れる余白」も入れておくのが、ビジネスでの依頼メールを送る際の気づかいである。
初回の連絡は、依頼の概要を示したうえで、次のような書き方をすると検討しやすい。
かないましたら、直接ご説明させていただきたいと思っております。
ご返信をお待ちしております。(P.211)
⑤記憶のコツ:小さな約束ほど「守り抜く」
「今度ランチでも行こうね」のような言葉は、気軽に言ってしまいがちだ。そして、言ったことを忘れてしまったりする。ところが、言われた方は案外忘れていないものだ。
特に若い人は本気で信じており、「いつ誘ってくれるのかと楽しみに待っていたけど、誘われなかったから、嫌われているのかもしれない……」と悩む人もいるという。
このように、「小さな約束」は、スマホなどにメモしておいて、タイミングを見て、守るようにしましょう。(P.244-245)
小さな約束だからこそ、きちんと守ることで「覚えていてくれたんだ!」という嬉しさにもつながる。
いかがだっただろうか。5つのコツとしてピックアップしたこれらは、冒頭にお伝えした友人が実際にやっていることだ。
一つひとつは小さなことだが、こうした気づかいが積み重なって絶大な信頼となり、チャンスが巡って来るのだと思う。
本書を参考にしながら、気づかいのコツを実践してみてほしい。