一方の猫はというと逆に8割以上が雑種であり、ブリーダーを介さず、もらった、拾った、迷い込んできたといった入手経路も多くあります。そのため法改正が猫のブリーダーにあたえる影響は小さいと考えられます。

「だったら、犬も猫とおなじようにブリーダーの手をあまりかけないで済む雑種に切りかえたらよいのでは」と考える方もおられるかもしれません。これについては犬と人間の関わり合いの歴史にも関係してくるのですが、犬の血統が守られつづけ、純粋犬がいまなお多く存在していることには意味があります。犬は、人間と暮らしていくうえで、人間の手によってさまざまな犬種が編みだされ、犬種ごとにさまざまな役割を果たしてきました。

書影『日本から犬がいなくなる日』(時事通信社)『日本から犬がいなくなる日』(時事通信社)
林 良博 著

 たとえば、ビーグルという犬種は嗅覚を生かしてにおいで獲物を追う役割が担わされた嗅覚ハウンドとよばれる猟犬です。またラブラドール・レトリバーはカナダのラブラドール半島で網からこぼれた魚を回収していた回収犬でしたが、現在は盲導犬としての役割のほか、介護犬としても活躍しています。役割を果たすためには、ビーグルならビーグル、ラブラドール・レトリバーならラブラドール・レトリバーといったように血統が保たれていることが基本的に大切となります。

 国際畜犬連盟という世界的な団体は、355犬種を犬種として登録しています。このうち約9割は使役犬、つまり人間のためにはたらいてくれる犬種です。なんらかの目的のために育種され、特殊な機能を先鋭化させた犬種たちです。雑種犬が主流になると、そもそも犬としての能力が薄まり、犬という動物の存在意義や価値が大きく変わってしまうことになります。