「社会を変えたいとは思わない」

青木 ですが、当時の僕らには何のケイパビリティもなかった。それでなんとか思いついたのが、セカンドハンドのお店で売っていたヴィンテージ食器をたくさん買って帰って、日本で売ってみるのはどうだろうというアイデアでした。戦略脳で考えたというよりも、いろんなものが惑星直列みたいにぴたっとハマった感じでした。

佐宗 そういう背景だったんですね。でも青木さんは「日本を北欧のように変えたい」と考えているわけではないんですよね?

青木 ええ、別に社会を変えたいとは思わないんです。みんながそれを望んでいるかはわかりませんし。ただ、自分のコントロールできる範囲で実現できることに取り組みたいと思っています。

佐宗 企業のミッションって「オレたちが社会を変えてやるぜ」というパターンと、「自分たちはこれを大事にしてきし、これからも大事にしますよ」というパターンがあると思うんです。前者を「パーパス型」と呼ぶとすれば、自分のスタイルが染み出していく後者のパターンは「アイデンティティ型」ですね。クラシコムのミッションは明らかに後者寄りですね。文化醸成・文化創造を行う老舗企業に似ているなと思いました。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー/多摩美術大学 特任准教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を創業。山本山、ソニー、パナソニック、オムロン、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、KINTO、ALE、クロスフィールズ、白馬村など、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーションおよびブランディングの支援を行うほか、各社の企業理念の策定および実装に向けたプロジェクトについても実績多数。著書に『理念経営2.0』のほか、ベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法』(いずれもダイヤモンド社)などがある。