星野リゾート代表に聞く。“持たざる経営者”ほど「ビジョン」を武器にすべき理由

【対談・星野佳路×佐宗邦威】理念経営の実践者たち #24

強烈なリーダーが「統率」するのではなく、個が「自律」していながらバラバラに崩壊もしない「渡り鳥の群れ」のような会社をつくるには、何が必要なのだろうか──? この問いを探究する『理念経営2.0』著者・佐宗邦威さんの対談シリーズ。
今回は、1914年創業の老舗旅館を継承して以来、独自のビジョンを掲げて会社を成長させてきた星野リゾート代表の星野佳路さんをゲストにお迎えする。代表就任後すぐにビジョンを掲げたのはなぜなのか? そして、ビジョンを掲げた結果起こったこととは──?(第1回/全5回 構成:フェリックス清香 撮影:疋田千里)

星野リゾート代表に聞く。“持たざる経営者”ほど「ビジョン」を武器にすべき理由

どんな「持たざる者」でも持っている「唯一のもの」

佐宗邦威(以降、佐宗) 昭和の時代の企業理念は、みんなで唱和して覚えていくようなものでした。しかしこれからのミッション・ビジョン・バリューは、社員一人ひとりが自分なりに消化しながら、浸透させていくべきものだと思います。昨年、そうした経営のあり方を『理念経営2.0』という本にまとめて上梓しました。

この本では、会社組織を「渡り鳥の群れ」にたとえています。渡り鳥の体内コンパスに当たるものが理念であり、どこに向かうか、仲間とどんな距離感で接するか、どんな群れなのか、群れの中心はどこにあるのかなど、それぞれの機能に応じてミッション、ビジョン、バリュー、パーパスなどが必要になってくるという考え方です。

本の中でも触れさせていただいたのですが、星野リゾートのみなさんは、理念を自分ごと化して働いていると感じます。星野さんが代表に就任なさった1991年当時から会社の理念を大事にされていたのですか?

星野佳路(以降、星野) いえ、先代までは経営理念のようなものはありませんでした。しかし私が経営を引き継いだとき、当時の会社を少しでもまともな組織にするためになんらか意識せざるを得ない事情がありました。そこで、組織を成長させるために必要な「道具」として、ビジョンをつくることにしました。

佐宗 どんな事情だったのでしょう?

星野 会社の成長に必要なものは人材です。しかし、星野リゾートの前身の株式会社星野温泉は当時、人材がいない会社で、軽井沢にとても老朽化した旅館を1軒持っているだけでした。

長野県内の大学生は県庁や銀行、地元の大手製造業に就職を希望する状況で、温泉旅館に就職してくれる人はいませんでした。土日休みではなく、年末年始もゴールデンウィークも休めない。当時は長時間労働だったうえ、給与もよくないわけですから当たり前ですよね。

経営者としてはさまざまな夢を抱いていましたが、人材がいないことには成長できません。求人広告を出してみましたが、最初の2年は新卒入社はゼロでした。

佐宗 なるほど。

星野 就職活動をする学生にとって、当時の株式会社星野温泉は就職先としての魅力がまったくなかったわけです。魅力を高めるために旅館をきれいにしようにも、お金もない。そのため、「私たちの今の状態はこうです。しかし、私たちは将来ここを目指しています。それに向かって一緒に挑戦してみませんか」と夢のあるビジョンを提示することでしか、会社の魅力を増す方法はありませんでした。これが私たちにできる唯一の方法だったのです。

星野リゾート代表に聞く。“持たざる経営者”ほど「ビジョン」を武器にすべき理由
星野佳路(ほしの・よしはる)
星野リゾート代表。
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士を修了。帰国後、1991年に星野温泉旅館(現・星野リゾート)代表に就任。以後、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB」の5ブランドを中心に、国内外で68施設を運営。年間70日のスキー滑走を目標としている。
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