新社会人にとって最重要なスキルをひとつだけ挙げるならそれは「言語化力」である――。文章や話し方の専門家であり、話題の書籍『「うまく言葉にできない」がなくなる言語化大全』の著者でもある山口拓朗氏はそう指摘します。「とっさの質問にうまく答えられない」「『で、結局、何が言いたいの?』と言われる」人は言語化力が欠けているのです。本稿では、著者・山口氏が同書のエッセンスを盛り込みながら、新社会人の方に向けて、言語化の重要性や言語化がうまくなるコツなどをお伝えします。

新社会人が何をおいても真っ先に身に付けたい意外な「最重要スキル」とは?Photo: Adobe Stock

すべての基本となる力「言語化力」

「言語化力」とは、頭の中にある考えや思い、情報などを的確に言葉にし、相手にわかりやすく伝える力のことです。実は、この能力の「高い・低い」が、その人の仕事の成果を大きく左右します。

 なぜなら、一人で完結する仕事は世の中にほとんどありません。自分の考えや気持ちを積極的に言葉で伝え、周囲の人たちと円滑なコミュニケーションを図りながら仕事を前へと進めていける人が、結果を残し、周囲からも重宝されるビジネスパーソンとなりうるからです。特に新社会人にとっては、最重要で高めるべき力といっても過言ではありません。

 ここでは、新社会人が言語化力を磨くことで得られる5つのメリットを紹介したいと思います。

①情報伝達がスムーズになる

 仕事の現場では、報連相をはじめ、指示の伝達、意見の交換、アイデアの共有など、さまざまなコミュニケーションが求められます。言語化力が低いと、情報が正確に伝わらず(ときに相手の誤解を招き)、ミスやトラブルを誘発することがあります。一方、言語化力が高い人は、そのつど、場面に応じて最適な情報を相手に伝えることができます。その結果、仕事が捗りやすくなります。言語化力が高い人ほど、ムダなやり取りを減らせるため、周囲の評価も高まりやすくなります。

②問題解決力がつく

 仕事とは、大小を問わず、問題解決の連続でもあります。問題が発生した際、その原因を言語化できなければ、対策を練ることすらできません。一方、言語化力が高ければ、問題の原因を具体的に表現し、その原因に対して適切な解決策を講じることができます。解決策も豊富に示せるため、問題解決の精度やスピードも高まりやすくなります。

③価値あるアイデアや企画を生み出せる

 言語化力には、アイデアを生み出す能力も含まれています。アイデアは多くの場合、言葉によって生み出されます。たとえば、「ロボットやAI、IoTなどの先端技術」に「農業」を掛け合わせることで「スマート農業」が生まれました。言語化力が低いと、アイデアの種となる言葉を出すことすらできません。一方、言語化力の高い人は、言葉と言葉を「足し算・引き算・かけ算・割り算」しながら、次々とアイデアを生み出していくことができます。

④生成AIを賢く使いこなせる

 ChatGPTをはじめとする生成AIを使いこなすには、言葉を用いてAIに適切な入力をする必要があります。言語化力が低い人は、具体的な入力ができないため、AIから質の高い出力を得ることができません。一方、言語化力が高い人は、AIに対して具体的な入力を行うことができます。その結果、仕事に使える情報を、正確かつ迅速に得ることができるのです。

⑤自己理解が深まる

 言語化は自己理解の役割も担っています。自分の考えや気持ちを言葉にできないと、自分が何者かがわからず、モヤモヤした気持ちを抱えかねません。一方、言語化力が高い人は、考えや気持ちを言葉にするプロセスを通じて、自己理解を深めていくことができます。その自己理解は、「自信」を生み出すほか、ストレスや感情のマネジメントにも一役買います。メンタルケアの観点からも言語化の意義・価値は小さくありません。

 このように、言語化力は単にコミュニケーションという範疇に収まらず、仕事で成果をあげるために不可欠な能力と言えます。「仕事の専門性を高めさえすれば、言語化なんて必要ないのでは?」と思っている人がいたら、それは大きな間違い・勘違いです。どんな仕事・職種も、その土台を支えているのは言語化なのです。

 逆に言えば、この言語化力を磨くことによって、あらゆるビジネスパーソンが、その成果を最大化することができる、ということ。自己理解を深めながら、他者ともストレスなくやり取りし、なおかつ、創造性に富んだ仕事をスピーディに進めていくことができる――言語化力は社会人にとっての「武器」そのもの。新社会人であれば、なおのこと磨くに値する能力です。

*本記事は、「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」著者の山口拓朗氏が、本書のエッセンスを盛り込みながら新社会人向けに書き下ろしたものです。