生き物たちは、驚くほど人間に似ている。ネズミは水に濡れた仲間を助けるために出かけるし、アリは女王のためには自爆をいとわないし、ゾウは亡くなった家族の死を悼む。あまりよくない面でいえば、バッタは危機的な飢餓状況になると仲間…といったように、どこか私たちの姿をみているようだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル、ガーディアン、サンデータイムズ、各紙で絶賛されているのが『動物のひみつ』(アシュリー・ウォード著、夏目大訳)だ。シドニー大学の「動物行動学」の教授でアフリカから南極まで世界中を旅する著者が、動物たちのさまざまな生態とその背景にある「社会性」に迫りながら、彼らの知られざる行動、自然の偉大な驚異の数々を紹介する。「オキアミからチンパンジーまで動物たちの多彩で不思議な社会から人間社会の本質を照射する。はっとする発見が随所にある」山極壽一氏(霊長類学者・人類学者)、「アリ、ミツバチ、ゴキブリ(!)から鳥、哺乳類まで、生き物の社会性が活き活きと語られてめちゃくちゃ面白い。……が、人間社会も同じだと気づいてちょっと怖くなる」橘玲氏(作家)と絶賛されている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。

ライオンは地球で最も恐るべきハンター…超納得の4つの最恐の理由Photo: Adobe Stock

地球上で最も恐るべきハンター

 人間の文化において、ライオンは力や勇気、強さ、騎士道などの象徴となっている。稀に人間を襲うことがあるにもかかわらず(いや、だからこそ、かもしれない)、ライオンという動物を好意的に見ている人は圧倒的に多い。

 特に、ライオンが今も生息する、あるいはかつて生息したことのあるアフリカ、アジア、ヨーロッパ全域にわたってその傾向は強いと言えるだろう。

「シン(=Singh ライオンを意味する)」は、世界で六番目に多い姓となっている。「レオ」という名のローマ教皇はこれまでに一三人いた。シンガポールという地名は「ライオンの街」という意味である。

 こういう例はいくらでもある。ライオンに関わる数字をいくつか列挙するだけでも、その凄さがよくわかるだろう。

ライオンはここがすごい

 大人の雄ライオンは体重二〇〇キログラム、肩までの高さ一・二メートルにもなる堂々たる体格である。

 雌のライオンは体格の面では雄に劣るが、敏捷性は上で、こちらも同様に強い動物である。その巨大な頭と顎は、人間の五倍もの噛む力を生む。

 恐ろしく鋭い四本の犬歯は、人間の指くらいの長さがあり、硬い肉を引きちぎるのに使われる。口の奥の臼歯は、ギロチンのように動物の皮膚、腱、骨などを簡単に切断してしまう。

 皿のように大きな足の鋭い爪もやはりライオンにとって重要な武器である。

 しかも、ライオンは驚くほど走るのが速い。加速度もあり、最高速度は、人間の最速ランナーの二倍ほどもある。

 そのおかげで、ライオンは地球上で最も恐るべきハンターになり得ているのだ。

なぜ世界各地に広がったのか?

 ライオンのすごさはそれだけではない。

 ライオンという種が成功できた理由、南アフリカからヨーロッパ、さらにはインドまで生息域を広げることができた理由は他にもある。

 それは集団行動だ―ライオンは実はネコ科の動物の中では唯一、真の意味での社会的動物なのである。

 大型のネコ科動物が数いる中でなぜ、ライオンが社会的動物になったのか。

 それについてはいくつかの説があるが、おそらく大きな、究極の要因は、「他のライオンの存在」だろう。ライオンの間では縄張り争いがあり、その中で、強さによる序列も決まるはずだ。

 最も良い縄張りは水辺に近い場所である。水辺が近ければ簡単に水が飲めるだけでなく、植物がよく育つので、休むための木陰も見つけやすいだろう。

 そして重要なのは、獲物となる動物も水を飲むためにそこに数多くやって来るということだ。

吠え声は10キロ先まで届く

 単独で生きるライオンが、群れを成すライオンに打ち勝ってそのような良い場所を手に入れるのはほぼ不可能だろう。つまり、単独よりも群れの方が、小さい群れよりも大きい群れの方が有利ということだ。多くが集まって協力し合うほど、良い場所を縄張りとして獲得し得る力が持てるわけだ。

 だが、縄張りを獲得すればそれでいいというわけではない。

 獲得した縄張りは守らねばならない。縄張りを得た群れに属するライオンたちは、においづけをし、吠え声をあげることで、縄張りの所有権を主張する。この吠え声はとてつもなく、驚くほど大きい。その音量は一一四デシベルにもなる。

 これは、緊急車両のサイレンの音にも匹敵する大きさだ。

 障害物のない開けた土地であれば、一〇キロメートル先にも届く。それだけの広範囲に強く警告を発することができるわけだ。

 においづけの効力もそれと変わらないくらいに強力だ。雄のライオンは、尿とフェロモンが混じり合ったにおいの強い液体を茂みや木の根本、石などに撒く。

 においが新鮮であれば(つまり、液体が最近撒かれたものであれば)、吠え声とともに、周囲への強いメッセージになる。それだけでは十分でないのか、ライオンたちは、目立つ植物に引っかき傷などをつけて縄張りを主張することもある。これだけのことをしておけば、付近を通りかかるすべてのライオンに「すぐに立ち去れ。侵入する者がいれば容赦しないぞ」というメッセージが伝わるだろう。

 メッセージを受け取ったライオンは、多くの場合、何もせずにおとなしく立ち去るだろう。

 しかし、そうでない場合もある。対抗するライオンたちは、吠え声などのメッセージからその群れがどの程度の大きさかを推し量ることができる。

 それによって、もし戦いを挑んだ場合、勝てる確率がどのくらいあるかもわかるのだ。

(本原稿は、アシュリー・ウォード著『動物のひみつ』〈夏目大訳〉を編集、抜粋したものです)