日本語は、主語が省略されたり、動詞が最後に来るといった他の言語と比べて独特な文法や文字体系、書き言葉と話し言葉の違い、敬語の存在、音声の特徴など、世界の他言語と比べ、極めて特異な要素を持っている。そのため「日本語は悪魔の言語のようだ」という言語学者もいるほどだ。

 欧州の人々が容易に英語を話せるようになるのも、その国の言葉と言語構造が似ているからに違いない。その意味で日本人にとっては、英語をマスターするのは至難の業だ。

 逆に欧米の外国人が日本語を習得するのもやはり難しく、敬語の使い方、まして書き言葉となると、もう大半がお手上げだ。

 アメリカの国務省には外交官養成局(Foreign Service Institute =FSI)という、文字通り外交官を養成する機関がある。そこでは各言語を「外国語習得難易度」とランク分けして公表している。英語を母語とする外交官が、プロレベルの外交業務に使えるようになるまでにどのくらいの習得時間が必要かを示し、各言語の習得難易度を一覧化したものだ。

【カテゴリー1(23~24週間)】(毎日3~4時間ペースで)半年程度でマスターできる。デンマーク語、ポルトガル語、オランダ語やフランス語、スペイン語

【カテゴリー2(30週間)】ドイツ語

【カテゴリー3(36週間)】マレー語、スワヒリ語

【カテゴリー4(44週間)】チェコ語、ペルシャ語、クロアチア語、フィンランド語など

【カテゴリー5(88週間)】アラビア語、中国語、韓国語、日本語(*)

 日本語には*マークが付いており、カテゴリー5の中でも最高難度であることを示している。

書影『外国人には奇妙にしか見えない 日本人という呪縛 国際化に対応できない特殊国家』『外国人には奇妙にしか見えない 日本人という呪縛 国際化に対応できない特殊国家』(徳間書店)
デニス・ウェストフィールド 著/西原哲也 訳

 知的レベルが高いアメリカの外交官が1日3時間休みなく続けても、習得には最低2年が必要となると考えられている。

 余談だが、中国の東北地方の北朝鮮と国境を接する地域に、日本語を学ぶ中学校がある。地理的に日本とも近く、その近辺に住む中国人は、日本語や韓国語に堪能な住民が多い。

 筆者の知人で、そうした環境で育った中国人がいる。自分で言わなければ中国人だとは気が付かないほどの日本語レベルだ。その彼は、母国語の中国語や韓国語と比べても、「日本語の表現の豊かさは非常に多彩ですばらしい」と話す。

 日本語は、中国語とほぼ同じ漢字を使い、韓国語とは文法も似ているという側面はあるが、言語構造的に世界各国の言語とは明らかに孤立しているかのようである。