日本のデジタル収支の赤字が議論されることが増えてきた。GAFAが属する米国の黒字は分かるが、それ以外の国は日本同様赤字なのではないかと疑問に思う向きも少なくないだろう。だが、他の主要国と比べても日本の赤字幅は突出しているというのが現状である。(みずほ銀行チーフ・マーケットエコノミスト 唐鎌大輔)
市民権を得つつある
デジタル赤字議論
デジタル赤字についてはこの1年で取り沙汰するメディアやアナリストが非常に急に増えた。問題提起した1人として、こうして世論が大きくなっていくことはうれしく思う。
過去の本コラムへの寄稿でも昨年11月には『日本の「デジタル赤字」4.7兆円超と8年で倍増、執拗な円安が続く要因に』、直近となる今年2月には『円安長期化に悩む「仮面の黒字・債権国」日本、戻らぬ円とデジタル小作人の末路』と題して、デジタル赤字を中心として、円の需給環境が変容を強いられている様子を議論させていただいた。
しかし、ことデジタル赤字に関して言えば、その国際比較に関して統計上の扱いが非常に煩雑で厄介なこともあり、まださほど分析が進んでいない。これから必ず議論が及ぶ論点になるはずであり、今回は簡単にその論点を深掘りしてみたいと思う。
筆者の知る限り、デジタル赤字の国際比較はまだほとんどの識者が手を付けていない。3月26日、財務省に設置された国際収支有識者会合では国際収支構造の大きな変容の代表例としてデジタル赤字の拡大が言及されている。
この点、昨年来、筆者はデジタル赤字にとどまらず、研究開発サービスや経営コンサルティングサービス、そして保険・年金サービスの赤字などが広がっていることも念頭に「新時代の赤字」として理解すべきと主張してきた経緯がある。筆者が初回会合で提出した以下の資料にもそう明記させていただいている。
国際収支から見た日本経済の課題と処方箋 ~「強い円」はどこへ行ったのか~
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/councils/bop/outline/20240326_3.pdf
ただし、「新時代の赤字」においてデジタル赤字がとりわけ大きく、潜在的な拡大余地を秘めているのは事実だ。2023年時点のデジタル関連収支赤字は約5.5兆円と過去最大を更新し、同じく過去最大の黒字を更新した旅行収支黒字の約3.5兆円を優に食いつぶしている。観光産業という肉体労働で稼いだ外貨は、今や頭脳労働で生み出されたデジタルサービスへの支払いに消えている。
なお、過去1年以上にわたって日本のデジタル赤字を取り上げて議論してきた経験から思うことだが、「デジタルサービスは米国の独り勝ちなのだから、日本に限った問題ではないのではないか」といった疑問を抱く向きはどうやら多そうである。
次ページ以降、その疑問にデータに基づいて答えていく。