懐に札束を入れる男性写真はイメージです Photo:PIXTA

運転手付きの黒塗りの高級車で移動し、さまざまな金脈を作り、政治活動に勤しむ。日本の政治家は、それが政治活動には必要不可欠だと思っているようだが、スウェーデンの政治家にそんな特権はない。徹底的に一般市民と同じ扱いで活動する政治家の姿を紹介しよう。※本稿は、クラウディア・ワリン『あなたの知らない政治家の世界 スウェーデンに学ぶ民主主義』(新評論)の一部を抜粋・編集したものです。

バス停に紙袋を持って並ぶ市長
市民からの目撃は日常茶飯事

「寒気団がスウェーデン全土を覆っている」という言葉が、3月の朝、「スウェーデンラジオ」から流れてきた。窓に雪が吹き付けている。ステン・ノルディン市長(2008年4月~2014年10月在任)とのインタビューに出掛けようとしていた私は、いつもの冬の天候のことを思い、「これって、ニュースなのかしら?」と首をかしげた。

 外の通りが凍った雪で何層にも固まっていたので、靴に滑り止めを装着しようかと思ったほどだ。スウェーデン人は、虚栄心や恥ずかしさから、この滑り止めを高齢者のアクセサリーだと思っている。私の常識も、私のプライドには勝てなかった。

 ノルディン市長は、おそらく市庁舎近くのハントヴェルカーガータン通りにある3番のバス停に現れるだろう。

 かつて、私はそこで彼を見かけたことがある。市長はスウェーデン人らしく時間に正確であるようで、あと何分でバスが到着するかを知らせてくれる電子パネルを何気なく見ていた。カメラマンのカシミール・ルーテルショルド氏がクングスホルメン近郊に住んでおり、「市長が、仕事帰りに同じバス停の列で待っているのを見た」と言っている。よく、買い物袋を持っているらしい。

 メーラレン湖に近づくと、ストックホルム市庁舎の金色のドームが見えてきた。スウェーデンの昔ながらのシンボルである三つの王冠がドームを飾っている。私は、1週間前に警察の車が滑って事故を起こし、警察官1人が亡くなった湾岸をチラッと見渡した。

 20世紀初頭に建てられたこの巨大な市庁舎は、800万個以上のレンガを使い、イタリアのルネッサンス様式を取り入れて造られている。私は市長とのインタビュー場所に行くため、「議会の廊下」と呼ばれる場所を通った。その廊下に並ぶ各政治家の部屋の入り口の上部に、この建物を建設した労働者たちの大理石像があった。

 大工のオスカー・アスカー、石工のE・トーンブラッド、木こりのヨハン・ルドウィク=マルムストローム、その他4名の労働者たちだ。

 私の傍らを歩きながら、報道官のアーロン・コレワ氏が廊下の突き当りの部屋に案内し、インタビューを市長の執務室でできないことを詫びた。その理由を尋ねると、「執務室は小さすぎるんです」という答えが返ってきた。数分後、ステン・ノルディン市長(穏健党)が廊下から私たちに向かって歩いてきた。

市長の通勤はバスか徒歩
経費のランチでも税金を払う

筆者 一般市民である労働者の胸像が飾ってありますが、どういう意味があるのですか?