これが、うまく民主主義が機能する秘訣だと思います。ですから、給与をもらう政治家はそんなに多くなくてもいいのです。

筆者 どういう制度になっているのですか?

市長 市議会が、自治体で実施されるべき事務の目標を決めます。議員によって選ばれた執行委員会がさまざまな提案を行います。これらの提案が議員に提示され、議員が投票によってどの提案を承認するかを決めます。

 議員が投票によって議決する前に、議案はいくつかの委員会で審議されます。議案によっては、委員会の審議を経ないで直接議会に掛けられるものもあります。市議会をストックホルムの国会にたとえるなら、市長が監督する執行委員会は市の「政府」にあたるということです。政治的な決定が可決されると、市議会によって指名された委員会が運営する市の事業者と行政部門がその事務を実行します。

筆者 市長室に助手は何人いるのですか?

市長 15名います。政務アドバイザー数人と、報道官が2人、そして秘書が1人います。私のチームのほとんどは政務アドバイザーです。市議会に対して政策提案を草稿する責任を負っています。

「ここでは政治家はリムジンに乗らない」
政治家も1人の市民であるべき

書影『あなたの知らない政治家の世界 スウェーデンに学ぶ民主主義』(新評論)『あなたの知らない政治家の世界 スウェーデンに学ぶ民主主義』(新評論)
クラウディア・ワリン著/アップルヤード和美訳

筆者 市長には公邸があり、すべての地方議員がフルタイムの給与をもらい、複数のアドバイザーや秘書、個人付きの運転手がいるような制度の国をどのように思いますか?

市長 我々が地方自治をする方法とはあまりにもかけ離れていますね。そういう制度は、政治家と一般市民の間に大きなギャップを生み出すことになるでしょう。「市長は普通の生活をしているので、一般市民の置かれている状況を理解している」と市民が信じている必要がありますし、具体的に信じられるだけの理由が必要です。

 もちろん、私は平均以上の給与をもらっていますが、豪華な公邸に住む権利もありませんし、運転手付きの公用車で移動したりもしません。ここでは、政治家はリムジンに乗ったりしないのです。もし、政治家がそのような恩恵にあずかれば、市民との間に距離ができてしまうことになりますからね。私は、ほかの市民と同じく1人の市民なのです。