「1日に30分程度、週に2、3回でも生活に運動を取り入れるのが理想です。ただ、そうは言っても持病などがあって、それがなかなか難しいという人も多いでしょう。その場合はただ歩くだけの超軽度の運動でも構いません。

 無理をしてテニスなどの激しい運動をしなくてもいいのです。たとえば、エスカレーターに乗らず階段を使う、家を出てから100メートルだけでもちょっと早歩きをする、でもいい。小さな運動でも構わないので、無理のない範囲で生活に取り入れる姿勢が大事です」

多様性のある食事と
睡眠が重要

 ちなみに、瀧教授はランニングや縄跳びを意識的に習慣化しており、1日に腕立て伏せと腹筋、スクワットを200回しているという。それは脳の専門家として「運動は確実にリスクを下げる」という事実を深く理解しているからでもある。

「筋力が落ちると、筋肉量が落ちて身体機能が低下している状態であるサルコペニア、加齢にともなって健康に障害を起こしやすい状態であるフレイルなどさまざまな状態が引き起こされますが、筋トレのように筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動は脳にもいいことが分かってきているんです。それに、筋トレは肌がきれいになるとも言われますよね。代謝を上げるので、体のターンオーバーを高めるからです。

 つまり、見た目が若い人は脳も若いんですよ。そもそも多くの被験者さんを対象に加齢の研究をしていると、若々しい方には社会とつながろうとする意欲が高く、だからこそ、見た目もきちんと整えようとする好循環があります。

 化粧や洋服に気を遣って外に出る。そうすると運動にもなるし、コミュニケーションも増える。脳の健康に非常に寄与する生活を送っているんですね。ちなみに、私は53歳ですが、運動を毎日して趣味も豊富なせいか、見た目が30代だとよく言われます」

 これにあらためて付け加えておきたいのが、食事と睡眠の大切さだ。

「テレビのワイドショーではよく『○○を食べると脳にいい』といった言い方をしますが、最近の研究では特定の何かを食べるモノイーティングよりも、多種多様なものを食べるのがいいことが明らかになっています。

 たとえば、納豆が体に良い、というのは確かにその通りなのですが、単に納豆ばかりを食べ続けてはいけない。極端なモノイーティングは腸内細菌叢の多様性を損ねるからです。よって、カロリーを抑えめにして、肉よりも魚介類中心に野菜と果物を多くとること。食物繊維の多いものを中心に献立を組み立てるといいでしょう。

『脳腸相関』という言葉がありますが、認知機能の維持や慢性炎症抑制のためには、多様性のある食事が欠かせないわけです」