僕は、結局のところ、確固たる「目標」を明示するとともに、それを達成するための「大方針」を腹に落ちるまで徹底的に考え抜くことに尽きるのではないかと思っています。
僕の場合であれば、「黒字化」という明確な「目標」を達成するために、「コストカット」という手段ではなく、「ファンに喜んでもらうことで、観客動員数を増やす」という「大方針」を打ち出したわけですが、この「大方針」を実行するためには、「選手ファースト」と「ファンファースト」を両立させるために全力を尽くすとともに、部署間の「壁」を壊し、全社一丸となってファンのために汗をかかなければならないと確信していました。
この「確信」があったからこそ、僕は「反発」を覚悟のうえで、「権力」を行使する腹が決まったのです。しかも、その「目標」と「大方針」に一定の説得力があったからこそ、一部の「反発」はあったものの、大半の社員たちは納得して、僕が掲げた方向に向かって足取りを揃えてくれたのではないかと思うのです。
しかし、それもまた「一面の真実」に過ぎないとも思っています。
というのは、いくら納得できる大義名分があり、それを丁寧に説いたとしても、それだけの理由で「権力」の行使を受け入れてもらえるとは思えないからです。
いや、どんなに立派な大義名分を持ち出されても、そのリーダーに対して「不信感」「懐疑心」を持っていたら、口では「わかりました」と言いながらも、内心ではひそかに反発しているに違いありません。“嫌いなヤツ”の言うことなんか、誰も本気で聞き入れはしないのです。
「社長」という”鎧”を脱いで、社員たちと付き合う
これは、かつて外資系金融でマネジャーを務めたときの「失敗経験」で痛切に感じたことです。
あのとき僕は、会社に用意された「個室」にこもって、現場のメンバーたちと気軽にコミュニケーションを取ったり、馬鹿話をしたりといった、人間的な交流をほとんどしませんでした。それどころか、僕は、「成績の悪い2割は入れ替えればいい」と内心で思っていたのです(その反省は「三流リーダーは『下位2割の社員』を入れ替えようとし、二流は『頑張れ』と寄り添う。では、一流は?」に詳しく書いています)。
そんな僕が、どんなに的確なアドバイスをしたとしても、誰も素直に聞き入れてはくれないのも当然だった。いや、僕が何をやっても、彼らは面白くなかったというのが実態だったはず。そんな状態で「権力」を行使しようとすれば、それがどんなに合理的であったとしても、猛烈な反発をくらうに決まっているのです。
それじゃダメだ……。
楽天野球団の社長になるにあたって、僕はそう強く自分に言い聞かせました。
そして、「社長室」は絶対につくらず、みんなと同じ空間で働くだけではなく、自らみんなのそばに歩み寄って人間らしいお付き合いをしようと心に決めたのです。
もちろん、社員たちに「好かれよう」と無理してもしんどいだけだし、かえってうまくいかないものです。そうではなく、状況次第で「社長」という“鎧”を脱いで、ひとりの生身の人間として、社員やスタッフたちとざっくばらんに付き合えばいい。そうすれば、自然と仲良くなる人が増えていくだろう……と思ったのです。
選手たちと“筋トレ仲間”になる
そんなわけで、僕は、仕事の合間に、社内をぶらぶら歩いて、社員たちに話しかけたり、若手社員をランチなどに誘ったり、社外の偉いさんとの会食に同席してもらったりと、とにかく社員たちとの接触ポイントを増やすことを心がけました。
そして、仕事の相談に乗ったり、馬鹿話をして笑い合ったりしながら、とにかく相手の話に耳を傾けることを意識しました。こちらが虚心坦懐に話を聞く姿勢でいることが伝われば、多くの人は徐々に心を開いてくれるようになると思うからです。
たとえば、こんなこともありました。
僕はときどき、仕事の合間に、筋トレで汗を流したくなって、筋トレルームに行っていたのですが、当然のことながら、そこには選手たちやバッティング・ピッチャーなどもやってくるので、だんだん彼らと仲良くなっていきました。
最初のうちは、「なんで社長が筋トレやってるんだ?」と驚かれますし、警戒もされますので、そうなるまでにはある程度の時間はかかりますが、何度も一緒に筋トレしたり、風呂に入ったりして、会話を重ねるうちに、だんだんと選手たちと社長という関係性を超えて、いわば“筋トレ仲間”になっていきました。
誰も傷つけることなく、
組織の「困りごと」を解決する
そうなると、いろんな情報が入ってくるようになります。