「かん口令」を敷くのは逆効果のワケ

 では、いなば食品やビッグモーターのように「社員のリークが止まらないダダ漏れ企業」にならないためにはどうすべきか。

 まず、大前提として「かん口令を敷かない」ということがある。これまで筆者はいろいろな企業の危機管理を手伝ってきたが、「社員の言論封殺」や「内部情報を漏らした犯人捜し」などの対応がプラスに働いたのを見たことがない。

 そういう社内の動きも、ほぼ間違いなく、メディアやネット・SNSに漏れる。そして、場合によってはバッシングを過熱させる。つまり、かん口令とは「我が社としては今回の問題に非常に神経を尖らせて、とにかく必死に握りつぶそうとしていますよ」と全世界に公表しているようなものなのだ。

 だが、それよりもこの対応が逆効果なのは、かん口令によって「社員の中に強い反抗心が芽生える」ということがある。

 昔、記者をしていた時、不祥事企業の社員からたびたび「内部告発」を受けた。彼らは「会社のため」「仲間のため」と義憤にかられてタレコミをすることがほとんどだが、そこで最後に背を押すのが「会社への不満」である。その中の具体的な例としてよく挙げられるのは、「社員には、かん口令をしいて、握りつぶそうとしている」ということだ。

 つまり、何か問題が起きた時に、会社の上層部は「かん口令」を敷きたがるが、逆にそれは愛社精神のある社員たちの不満をふくらませているだけに過ぎない。むしろ、かん口令を重ねていけばいくほど、彼らの反抗心は強くなって「怒りの内部告発」へとつながっていくのだ。

 この悪循環は、いなば食品を見ても明らかだ。滝沢ガレソ氏のもとに持ち込まれた内部のメールだという画像によれば、退職者がネットで同社の悪口を書いている可能性がある、ということを全従業員に対して報告し、「醜い行為」として釘をさしている。また、転職サイトに批判的な書き込みをした「在職者」がいるとして、「今ただ直ちに名乗り出れば情状酌量とする」と犯人捜しまでしている。

 こういう画像がたくさん「流出」していることからもわかるように、かん口令に効果はない。むしろ、社員の反抗心を刺激して、後々は「攻撃材料」としてイジられるのがオチなのだ。