
資本主義の本場アメリカで国会議事堂が襲撃されたように、市場経済に見捨てられたと感じた人々が、怒りの矛先を民主主義に向けはじめている。一方で、共産主義を建前とする中国は市場経済の導入によって大発展を遂げた。かつては民主主義の最良のパートナーと目されていた資本主義は、どこへ向かうのか?※本稿は、大澤真幸『西洋近代の罪 自由・平等・民主主義はこのまま敗北するのか』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
民主主義と資本主義は
いまや真逆の方向へ歩み出した
民主主義と資本主義は、まさにおしどり夫婦であった。両者の相性のよさは、論理的な観点からも裏付けられる。近代民主主義と資本主義は、同じ形式の社会ヴィジョンを共有しているのだ。
また歴史的な事実を見ても、民主主義と資本主義とが親和性が高いことは確認できる。成功した資本主義、十分な経済成長をもたらした資本主義はこれまでほとんど、政治的には民主主義の体制だった――アセモグル(編集部注/カメール・ダロン・アセモグル。経済学者)等がいう「包摂的な政治制度」を採用してきた。
だが、この仲睦まじかった夫婦の間に亀裂が入り始めている。離婚することになるのではないか。そのようにも見える。仲がよかった民主主義と資本主義との関係が、離婚を覚悟しなくてはならないほどに破綻しつつあるのだ。
このことが、すなわちこの10年間に顕著になってきた「民主主義の劣勢と危機」と相関している。それは、次のような事実であった。
第1に、現在、民主的と見なしうる国と地域よりも、非民主的で権威主義的と見なした方がよい国と地域の方がずっとたくさんあり、この10年間に関して言えば、権威主義的な体制をとっている国と地域の方が増えつつある。