予見的符号化は、あらかじめ将来に必要な行動に情報を変換しておくやり方です。たとえば、天気予報を見て明日は雨だと知ったときに、傘を玄関に出しておいたとします。次の日になって天気予報の内容を忘れていたとしても、自分が玄関に置いた傘を見れば、これから雨が降ることを思い出します。

 一方、回顧的符号化では、情報を回顧したときに記憶を取り出します。朝、昨日見た天気予報のことを思い出すことができれば、傘を持って出かけることができます。

 予見的符号化は覚えておきたいことをふせん紙に書いて貼っておく作業と似ています。ふせん紙に書いてある内容だけでなく、「ふせん紙に書く」こと自体が重要な情報なのです。これは量に限りあるワーキングメモリを効率よく使うための方法です。

 しかし、この方法は忘れたい情報をリマインドすることにも一役買ってしまいます。本来は悪いことが起こったときにだけ不安になればよいのですが、将来のことを過剰に心配する人は、悪いことが起こる前に対処しようとするので、その行動が不安をより強めることになるのです。

 備えることでかえって自分で自分を不安にしていることも多いのです。

 このように不安の原因・理由はじつは確固たるものではなく、無意識におこなっている習慣から自分でつくり出している面があるのです。

不安を避ければ避けるほど
避けられなくなるパラドックス

 対処行動をとる理由は、不快感から逃げるためです。対処行動は回避行動と言い換えることもできます。日常生活において全力疾走で逃げることはなくとも、不快感から逃れるためにしている行動はたくさんあります。

 たとえば、ゴミ出しです。家庭から出たゴミをビニール袋にまとめて、居住地のルールに合わせてゴミを家から出します。ためこみ症の人でなければ、ゴミがなくなるとスッキリした爽快感が味わえます。

 ゴミ出しは、きれいな家に住むための行動ですが、それは同時にゴミだらけの家になることを避けるための行動でもあります。

 大半の人にとって、ゴミ出しは自動化された習慣となっており、収集日の朝やゴミ箱がいっぱいになったときに、反射的におこなっています。