「苦手な人」との付き合いも茶道の精神で突破

 前田さんは「茶道」を学んだことで、知らず知らずのうちに、ビジネスで生きる力が磨かれていったと自身の体験を振り返ってくれた。

「例えば、不動産管理の仕事の場面。お客さんと向き合うとき、どんな突飛なご要望があっても、ビジネス上では、頭ごなしに『NO!』という答えはない。そこで生かされるのが、茶道で磨かれた『観察力・行動力・判断力』の三つです。

 相手の言葉だけでなく、表情もしっかりと観察する。なぜ、こんな要望を持っていらっしゃるのか。うちの不動産を使って、どんなビジネスを展開していかれたいのか。それを、表情からつぶさに観察する。もちろん、瞬間的に判断できるものではなく、何度も顔を突き合わせてやりとりしていく中で、おぼろげながら、ご要望に輪郭が見えてくる。そうしてようやく、最初に感じた唐突さの理由がくみ取れ、解決するための筋道が立てられる。

 急がば回れ、といいますが、時間がすべて、コスパ最重要の時代でも、ビジネスは人付き合いの仕方の中にこそ、答えが見つかっていくんです」

 また、ビジネスの場面では避けては通れない「苦手な人」についても、「茶道」の精神で突破することができると話す。

「どこを苦手と感じて、なぜ不快なのか。もしかすると、こちらに何か原因があって、相手はあえて同じような態度を取っているのかもしれない。心が壊れるまで付き合う必要はないけれど、ビジネスでは気の合う人とばかり付き合うことはあり得ない。ならば、苦手なタイプを減らすことが大切です。

 茶道の核心である『思いやり』の気持ちを持って、相手のことを知って、どこに喜びを感じ、なにが嫌なのかを忖度する。普段のやりとりの中で、その答え合わせをしていくと、次第に相手の求めている快適さを提供できるようになり、気付いたら最高のビジネスパートナーになっているというケースも多々ありました」

 マニュアルや形式通りではなく、その人によって柔軟に対応方法を変えていく。その思いを「茶道」が持つ、一客一亭や一期一会の教えを例に取り、次のように教えてくれた。

「茶道もビジネスも、人との関係性で成り立っている。どっちも金太郎あめではあかん。その人だけの特別な方法を編み出すこと。テクニックは引き出しの数にはなるけど、最終的にはそれを見切って、その人ごとに目新しい引き出し、耳新しいテクニックを編み出していく、こうした考えが、最高のおもてなしに繋がるのではないでしょうか」