茶道が教えてくれる、ビジネスに生きるテクニック
では、「茶道」の中で、ビジネスで使えるテクニックには、どのようなものがあるのか。
「これも、ひとつの考え方で絶対ではないけど……」と前置きをした上で、次のような話をしてくれた。
「茶道には、型、様式があります。これは、その様式に沿って茶碗を持ったり、お菓子を差し出すと、所作が美しく見えるからなんです。それもひとつのおもてなしの心ですねん」
とはいえ、客人の気持ちは千差万別に違いない。「茶道」の視点から、おもてなしをいかに届けることができるのか。前田さんが続ける。
「ビジネスの場面では、昇格や転職など、新たな環境に挑む人たちも多い。そんなとき、ぜひ使ってほしいのが、掛け軸なんです。例えば、千利休さんが残した『本来無一物』という掛け軸を掛けてあげる。気持ちも何もかもゼロに戻して、心機一転、新たなスタートを切りましょうという思いを伝えてあげられるんです」
茶道で掛けられる掛け軸には、定石というものがある。季節やお茶会のテーマなどに合わせた、掛け軸の絵柄や記される禅語のパターンのことだ。とはいえ、そうした決まり事に縛られるのではなく、「客人ごとに合わせた、おもてなしの心を持つことが大事なんですわ」と前田さんは言う。
「掛け軸の言葉の意味は、二人の関係性や受け取る側の気持ちによって変わります。だから、ひとつの意味に固執せず、自分自身の解釈はあれど、あくまで相手のことを思いやるなら、掛け軸のどんな言葉でも届けられるはず」
掛け軸に続き、お茶の入れ方にもポイントがあると話す。
「塩味のお菓子と甘いお菓子でもお茶の入れ方は変わってきます。接待で二日酔いかなと思ったら薄味にしてあげる。それを、さりげなく行い、味わっていただくことで、おもてなしを受けた側を心底喜ばしてあげることができるんです」
こうした気配りや心配りは無数にある。また、相手のことを想い、心地よい時間を提供するためには、形式さえも取っ払うことも必要だという。
「相手が求める状態をこちらから露払いしてあげるのも大切です。相手が、もし足がしんどそうなら『どうぞ、崩してください。わたしも、しんどいので崩していいですか?』と先に崩してあげると、相手も気を使わずに崩せるでしょう?相手が最も心地よいと思う状態をいかに作るかが大切なんです」