日本最大級の住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」(株式会社MFS)を運営する塩澤崇氏が、新時代に対応した住宅ローン本『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』を上梓し、SNSなどで大きな話題となっています。マクロ金融と住宅ローンの双方に精通する塩澤氏が、現役世代に「お金のことについては親世代の意見はうのみにしないほうがいい」と伝える理由を教えてもらいました。
(※この記事は、『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』の一部を改変し公開しています。)
バブル期の住宅ローンの金利は「8%」だった
ここまで繰り返し「住宅ローンで家を買う」ということを論理立ててお伝えしてきましたが、それでもまだ「やっぱり大きな借金をして家を買うのは……」と躊躇してしまうとしたら、もしかするとあなたのご両親や祖父母の影響かもしれません。
といいつつ私自身、住宅ローンに関わる仕事をしていなければ、やはり「借金はよくない」という間違った思い込みをしていたように思います。
私の祖父母や両親は、株式投資が一般世帯に広まった時代を生き、NTTやJALの株を持っていたのですが、バブル崩壊で大損。JAL株についてはJALが2010年に事実上の倒産をして紙くずになってしまいました……。
そんな経験から「株式投資は危ない」と思うようになったのでしょう。私が外資系証券会社に就職することを伝えると、「株屋は危ないから、銀行に行け」といわれたことを覚えています。
そして、住宅ローンについても「住宅ローンは早く返してキャッシュをできるだけ手元に残しておくべき」という考えを強く持っています。まさに「貯金が一番。現金第一」です。
私の親世代は、バブル期に住宅ローンを抱えていたため、「住宅ローン=金利がたくさんつく」というイメージなのです。たしかに当時の住宅ローンの金利は8%ほどまで上がりましたから、金利負担は相当なものでした。たとえば3500万円の住宅ローンを35年金利8%で借りたとすると、月々の返済額は約25万円にも達します。仮にこの金利のまま35年間をかけて返済したとしたら、金利だけで約7000万円も支払うことになっていたのです。
そのため、「金利が上がると大変だから、変動金利よりも固定金利がよい」と考える傾向も強いように思います。
このような考えは、バブル景気の時代を生きた世代にとっては、ある程度仕方ないことかもしれません。
そして、バブル景気の後にやってきたデフレ時代の人生戦略をごくシンプルにいえば、「現金を握りしめていれば勝ち」ということに尽きます。
だんだんと物価が下がっていた時代であれば、同じお金でも年々買えるものが多くなっていくため、たとえばノートパソコンを購入するときも、「今年よりも来年のほうが安くなるだろうから、とりあえずお金を使わないでおこう」といった判断が合理的です。
また、バブル崩壊以降は不動産価格が下がっていったので、多額の住宅ローンで家を買うと損をしてしまう状況がありました。たとえばバブル崩壊直前に5000万円を借りて家を買ったのに、10年後には家の価値が2000万円に落ちたなら、大きな含み損を抱えてしまいます。そして、売却した場合はその損失がボディーブローのように効いたはずです。
デフレ時代は企業は儲かりにくく収益を上げづらいため、株価も低迷します。ゆえに、「投資よりも貯金」という堅実性に重点をおいたメッセージにもある程度説得力があったといえます。その考えを引きずった結果、今では日本の普通預金の金利が0%近辺という極めて低い水準にもかかわらず、日本人の家計に占める金融資産の半分以上が現金や預金という理解しがたい状態になっています。
でも、すでに書いた通り我々の時代はデフレが終わり、緩やかなインフレになろうとしているわけですから、考え方を180度変えなくてはいけません。インフレ時代は物価が上がって企業が儲けやすくなるため、株価も上昇しやすくなります。であれば、「インフレをいかに味方につけるか?」という発想に切り替え、株式投資を検討すべきでしょう。「インフレで物価が上がって生活が大変! 政府や日銀はなんてことしてくれるんだ!」と、ぶつくさ文句をいっても何も課題解決にならないです。この発想の転換ができずに親や祖父母世代の考えにとらわれていると、結局は損をするだけです。
簡単にいうと、今を生きる私たちは、次のように意識を切り替える必要があるのです。
・現金をできるだけ持っておくべき → 現金は必要最低限にすべき
・投資よりも貯蓄 → 貯蓄よりも投資
・借金はできるだけしない → 借金を積極的に活用する