昨今の企業業績の回復は、まさに上司世代が、プレイング・マネージャーとして成果を挙げてきた結果だといえます。

 そんな上司たちにとって、ここ数年、新卒採用が増えてきたことは、空前の忙しさからの解放を意味するわけですから、本来、非常に喜ばしいことのはずです。しかし、入社してきた若手たちを前にして、上司は戸惑いを隠せません。

厳選採用と非正社員採用が奪った
部下を育てる機会

 なぜ上司は困惑してしまうのでしょうか。その理由は、これまで述べてきたように、“教える”経験の乏しさにあります。さらにいえば、自分より年下の社員とコミュニケーションをとる機会に恵まれていなかったためです。

 周知のとおり、厳しい経営環境が長く続いたため、採用基準はバブル時代には考えられないほど厳しいものになりました。

 その結果、当たり前のように毎年入社してきた新卒社員は激減。今の上司たちの下には、即戦力である中途採用や年上の部下が増え、一から教育が必要な若手社員と接するチャンスを失ってしまったのです。

 現在の上司の立場や役割を難しくしているもう一つの要因として、雇用形態の多様化が挙げられます。

 厳選採用と並行して進められていたリストラでは、今の上司世代の少し上、中高年のベテラン層がターゲットとなりました。ただ、いくら経営環境が厳しいとはいえ、日々の業務をこれまでどおり行うためには、新卒の若手と中高年の不在で開いた穴を誰かが埋めなければなりません。

 その穴を埋めたのが、契約、派遣、業務委託などに代表される「非正社員」でした。社会保険などの固定費を支払うリスクを負わずに雇用できるため、会社が利益を確保するための手っ取り早い手段として、今では雇用者全体の3分の1を占めるまでになっています。

 この状態はたとえれば、今のプロ野球チームで指揮をとるようなものです。チームには、トレードで移籍してきた選手もいれば、外国人選手もいます。「1試合に球数は100球まで」と契約で決められている投手もいれば、「同意なしでは2軍に落とせない」という選手もいます。