前回までは、部下を動かすのは上司の“言葉”であると、お話ししてきました。しかし、コミュニケーション・スキルを駆使するだけでは、上司の“言葉”の正確な意図は、なかなか部下に伝わりません。
人の能力は2階建て構造になっていて、1階のリテラシー部分がなければ、2階部分に当たる専門スキルは身につかないと説明しました。実は、上司と部下の関係も同じく、2階建てで考える必要があります。
上司と部下の関係において、1階部分にあたるのが“信頼関係”です。これを抜きにして、2階部分のコミュニケーション・スキルばかり学んでも、スレ違いは解消できません。
上司と部下とはいえ、結局は人間同士ですから、信頼関係がモノをいうのは当たり前のこと。一生懸命コーチングで質問や動機付けのスキルを学んでも、思うように効果が上がらないのは、この1階部分をすっ飛ばしているからなんです。
信頼関係を築くのに、とりわけ大きく影響してくるのが“共通認識”の多寡です。共通認識とは、相手がどんな思考のクセを持っているのか、何を快・不快と感じるのか、何に関心があるのかなどを、お互いに理解し合っていることを指します。育ってきた時代や社会状況、歩んできた道が似通っていたり、コミュニケーション頻度が高いほど、共通認識は多いものです。喜怒哀楽を共にした学生時代の友人や部活動の仲間の絆が強いのはこのためです。
そう考えると、年齢も立場も異なる上司と若手との間では、どうしても共通認識は少なくなります。そのため、信頼関係が築きにくく、誤解も生じやすくなってしまうのです。
子どもの頃、好きだったアイドルを比べてみても、それは明らかです。今の若手の中高生時代はモーニング娘。がデビューしたばかり。一方、上司世代は松田聖子や中森明菜が全盛期の頃でしょう。上司世代からすると、「エッ!? モー娘って、最近デビューしたばかりじゃないか」と思うでしょうし、若手からすれば「松田聖子ってテレビに出てたの? 明菜って誰?」といった感じでしょう。話をかみ合わせるには、お互いに歩み寄らなければなりません。