仰木彬監督から指導方法を学び
コーチに「教えるな」と説いた

「私の阪神退団が決まった時に、オリックス・ブルーウェーブに誘っていただいた故・仰木彬監督は、まず選手の才能を黙って見ることに重点を置き、長所を生かす人だった。イチローの個性あふれる振り子打法や、野茂英雄のトルネード投法に何の手も入れなかったことが、その象徴。私は、仰木さんの指導方法から育成の哲学を学んだ」(岡田彰布監督)

 岡田の指導哲学に大きな影響を与えたのは仰木彬で間違いないだろう。岡田は1996年から2年間、仰木が一軍監督を務めた時期に二軍監督を務めている。二軍監督時代、岡田はひとつのスローガンを掲げた。それは「コーチは1年間、とにかく何も言うな」というものだ。

 岡田は語る。

「私は、二軍のコーチに必ずこう言う。『教えるな』。言われたコーチはきょとんとしている。自分たちの仕事は、選手に教えることだと思っている。教えて、俺が育てたと胸を張ることだと思っている。いや、そう言われたいと思っている。心配することはない。聞かれたら、答えればいい。ここがこうなっている、と外から見えるアドバイスをすればいい」

 この理由について、岡田はこう語っている。

「競争をくぐり抜けてきた選手の素質を潰すのは、球団の経営戦略上でも問題があるだろう。高い契約金を払っているのである。ならば、スカウトの眼力を信じて、1年間は触らずに、その選手の力量と、プロへの対応を見守っておくべきだろう」

 老子は「最高のリーダーとはメンバーから存在すら意識されないリーダーである」と述べている。とにかく余計な口出しをいっさいしないリーダーである。もちろん、このリーダーは何もしないわけではない。メンバーに緊急事態が発生したときは、すぐに行動して問題を解決するのだ。

 何ごとにも手取り足取り指導するリーダーのもとではメンバーが育つことはない。独立自尊の精神を身につけ、みずから成長することができるメンバーを育てることができるのが、岡田のような一流のリーダーの共通点なのである。

 リーダーはメンバーに仕事を進めるうえで好ましい情報だけを提供して、あとは彼らの最終決断に委ねよう。このことこそチームを勝利に導く切り札となる。