岡田が「アレ」をつぶやくほどに
「ハロー効果」が働き選手が奮起
「オレは優勝できるとは言い切っていないけど、その可能性は限りなくあると表現しているはず。その自信がオレにはあったし、それは必ず勝負の9月、10月に実を結ぶと確信していた」(岡田彰布監督)
岡田が、なぜ阪神を2023年シーズンにおける日本一のチームに仕立てたか。
これは、あくまでも私の考えであるが、それは岡田が、ほかのどの球団の監督より「優勝する」という確信の度合いが強かったからだ。その証拠に、岡田が口にする「アレ」は強烈に選手の心のなかに浸透し、その気にさせる効果があったのだ。
リーダーの思いは、それを頻繁に口にすればするほどメンバーに浸透する。そして、リーダーの確信はメンバーの確信としてチーム内の隅々まで浸透し、「アレ」を実現する後押しをしてくれるのだ。
「ハロー効果」はリーダーにとって知っておいていい心理法則である。これは心理学者エドワード・ソーンダイクが提唱した法則で、それが持つ顕著な特徴に引きずられて、ほかの特徴についての評価がゆがめられる現象のことをいう。
たとえば、ある分野の専門家が専門外のことについて語っても、それが説得力を持つということや、外見のいい人が信頼できると感じてしまうことなどがその好例である。
岡田が「アレ」をつぶやけばつぶやくほどハロー効果が働き、選手の心のなかで「優勝できる!」という確信が着実に育っていったはず。これが2023年シーズンの阪神を日本一に導いた大きな要素であることは論をまたない。
「漏れ聞き効果」を狙い
選手を間接的にほめる
岡田が選手と直接コミュニケーションを取ることはあまりない。その理由のひとつは「平等の精神」を貫くためである。
もうひとつの理由は、間接的に選手をほめれば、より効果的であるという心理法則を熟知しているからだ。彼は、かつての野村克也や星野仙一と同じように、メディアを通して選手に自分の意図を伝える手法をとることがめずらしくない。
たとえば2022年11月の安芸キャンプ最終日。梅野隆太郎は岡田の構想をスマートフォンのネットニュースで知った。そこには「正捕手は梅野」という見出しが躍っていた。それを見た梅野は狂喜したという。
カナダのカルガリー大学のデビッド・ジョーンズ博士は、これを「漏れ聞き効果」と名づけている。当事者ではなく、まったく関係のない第三者が語ったほうが説得効果は高くなる。リーダーにとって覚えておいていい心理法則である。