児童養護施設出身モデル 田中れいか

企業に新入社員が入社して2カ月が過ぎた。学生生活からの環境の変化に戸惑い、相談する相手もなく、孤独感を覚えている新人も多いことだろう。人事担当者や先輩社員は、そんな彼・彼女たちにどのような言葉を送り、手を差し伸べればよいか。人間関係やコミュニケーションが希薄になりがちなウィズコロナの時代――他者に寄り添ってもらい、自分が誰かに寄り添うことの大切さを伝え続ける人がいる。児童養護施設出身モデルの田中れいかさんだ。25卒内定者向け「フレッシャーズ・コース2025(*1)」にも出演している田中さんが語る“理想的な職場”とは?(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

*1 「フレッシャーズ・コース2025」(ダイヤモンド社)は、全7巻ワンセットの新卒内定者フォローツール。田中れいかさんは、第3巻の「The Life」(著名人インタビュー)に出演している

地下鉄で通勤するのがだんだんしんどくなって…

 田中れいかさんは、7歳から18歳までの11年間を東京都内の児童養護施設で過ごした。もともと、父と母と姉と兄の家族5人で暮らしていたが、両親の仲に亀裂が入り、母親が家を出て行ったことをきっかけに、父親のいら立ちが子どもたちに向くようになったという。そして、ある日、父親から「出ていけ!」と言われ、姉がパジャマ姿の妹(田中れいかさん)の手を引いて交番に駆け込み、その場で保護されたことから、児童養護施設での暮らしが始まった。

田中 「施設で育ったなんて、かわいそう」と、周りの人に言われることもありますが、児童養護施設では、生活に不自由なく、お小遣いももらえたし、好きな洋服も買ってもらえたし、習い事もできました。むしろ、“壁”にぶつかったのは、18歳で施設を出て一人暮らしを始め、短大に進学したときです。友達と私の生育環境の大きな違いに気づき、うらやましく思ったり、自分が少数派であることの悲しさを感じたりしました。「家庭の事情は、一人ひとりが違っていて当然」とわかってはいたのですが、だんだん、周りのみんなと距離を置くように。とはいえ、施設には戻れないし、父や母の住む場所は実家ではないし……いろいろな感情を自分ひとりで抱え込むしかなく、その頃は本当に孤独でした。

田中れいか

田中れいか

モデル/一般社団法人たすけあい 代表理事

1995年、東京都出身。親の離婚をきっかけに、7歳から18歳までの11年間を世田谷区にある児童養護施設で暮らす。退所後、短期大学進学。その後、モデルの道に。ミスユニバース2018茨城県大会準グランプリ・特別賞受賞。自らの経験をもとに、親元を離れて暮らす「社会的養護」の子どもたちへの理解の輪を広げる講演活動や情報発信をしている。2020年4月、社会的養護専門情報サイト「たすけあい」「社会的養護専門 たすけあいch」(YouTube)を創設。モデルとしての初表紙は『Forbes JAPAN』(2022年11月号)。著書に『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)がある。

 

 気持ちの晴れない日が続いたものの、田中さんはコーチングを受けたことで前に進む力を得た。「自分(田中れいか)が、自分ならではの夢を叶えることで、施設で暮らす子どもたちにプラスの影響を与えられる」ということに気づき、幼い頃からの夢だったモデル業に挑戦し、「生い立ちに関係なく、誰でも好きな“じぶん”になれる」というメッセージを、他者と、とりわけ、“自分自身”に向けて発信するようになった。また、社会人として最低限のスキルを身に付けておくために、会社での事務仕事も経験。そこでの出来事が現在(いま)でも心に残っているという。

田中 勤め先は、知人に紹介してもらった会社だったのですが、モデルの仕事が入った日は勤務時間に融通を利かせてもらうなど、とてもよくしていただきました。でも、毎朝、地下鉄で通勤するのがだんだんしんどくなって、定時にオフィスに着けなくなってしまい……ダメな自分への嫌悪感で落ち込みました。そんなある日、私の様子に気づいた上司がカフェに誘ってくれて、「つらかったら、出勤時間と退勤時間を少し遅らせようか?」と提案してくれたのです。それまで、私はイヤなことがあると、相手との関係を断ってそのままフェードアウト――つまり、切迫した状況から逃げてしまう癖がありました。でも、そのときの、「つらいときは、ちゃんと言っていいんだよ」という上司の言葉に救われて、SOSや要望をきちんと相手に伝えることの大切さを学びました。社会人なら、決まった時間に出社して、決まった時間に退社するという、規則どおりの働き方をしなければ……と思っていたのですが、時と場合によっては、自分の思いをしっかり伝えて、環境を変えることもできるのだ、と。仕事に対する責任感や、相手を裏切ってはいけないという気持ちも、上司との対話を通じて生まれました。