昨今の若い世代は“社会貢献”の意識が高く…

 昨今は、多くの企業で1on1が実施されていて、その手法に独自の工夫を凝らしている組織も少なくない。田中さんは、どのような1on1が、離職を防いだり、若手のモチベーションアップにつながったりすると考えているのだろう。

田中 実は、私は、「会議室」が嫌いなんです。会議室に呼び出されると、ドキッとしますよね。それよりは、かつて、私の上司がそうしてくれたように、カフェなど、会社の外に誘ってもらい、フランクな雰囲気のなかで、「最近、どう?」と聞いてもらえるほうがいいです。会議室では緊張して話せないようなことでも、職場から離れた空間だと気持ちを切り替えて、自分を客観視しながら話すこともできると思うのです。そういうときのカフェ代が福利厚生扱いになるとさらにありがたいですね。

 また、メンター制度のようなものがあって……たとえば、相性のよい1on1の相手を選べるといいな、と思います。社内のメンターがよいのか外部の専門家がよいのかはわかりませんが、直属の上司とすれ違いが生じたときに、第三者が間に入ってくれて、「それは、○○さんの思い込みですよ、あなたの上司が言っているのはこういうことですよ」と取り持ってくれる仕組みがあるといいです。上司と部下を1対1の関係で終わらせずに、双方のヘルプとなる人の存在――相談先という“逃げ場”があると、お互いの気持ちが楽になりますから。私も、現在の活動で困ったことがあったときは、外部の方にすぐに相談するようにしています。

 現在、田中さんは、大学で講義をしたり、SNSでメッセージを受け取ったりして、学生と接することも多いようだ。いまどきの学生に、田中さんが抱く印象は?

田中 “社会貢献”に対しての意識の高さですね。私は、大学構内だけではなく、各地域のボランティア団体などでもたくさんの学生に出会うのですが、「自分が必要とされていると感じたい」という方が多い気がします。そして、社会に貢献したい気持ちはあるけれど、自分がどう動けばよいのか、何をすればよいのかがわからないという方もたくさんいます。そうした若者たちは、就職活動においても、企業のCSR活動をよく見て、自分が企業の方針にシンパシーを感じられるかを確認しています。ですから、若い世代を採用したいのであれば、企業は、自社ならではの社会貢献活動をどんどん行っていったらいいと思います。

 今回のインタビューは、来年2025年の4月から社会に出て働き始める学生に、田中さんの生き方・考え方を伝えるために、「フレッシャーズ・コース2025」というメディアが行ったものだ。しかし、田中さんの言葉の節々には、若い世代だけではなく、経営層や人事担当の方々にも響くことがたくさんあったので、「フレッシャーズ・コース2025」では伝えきれなかったことを、改めて、この「HRオンライン」でお届けした。

 田中さんは、「自分の才能と、社会が求めていることの両方が最初から合致する人なんていない。まずは、やりたいようにやってみて、ダメならとことん落ち込めばいい。そのうち、少しずつ、合致するところが見つかるようになるはず」と、新社会人たちにエールを贈る。落ち込んだり悩んだりする時期が、次のフェーズに向かうことの伸びしろになるというのが田中さんの経験知だ。

 今年2024年4月に社会に出た若者たちは、初めての失敗を経験し、気持ちを落ち込ませながらも、前向きに働く姿勢を探している時期だろう。「よい結果はすぐには出ない」ことは、企業勤めの長い社員や社会人の先輩である私たち自身が痛感している。だからこそ、新社会人である彼・彼女たちの歩みを、腰を据えて見守る姿勢と職場環境を整えることが、それぞれの企業には必要なのだろう。