厚生労働省の「雇用情報シート」における企業への要求は、後述するように相当細かく、たとえば以下のようなものです。

(1)募集・採用に関する情報 新卒者等の採用者数/離職者数など
(2)平均継続勤務年数 。 参考値として、記入日時点での平均年齢も記入
(3)採用区分(例:総合職/一般職)、学歴別(大卒/高卒)や事業所別、職種別などの情報
(4)給与、残業手当、社宅や住宅補助の金額

 以下、正社員以外の情報や平均所定外時間労働、有給休暇の平均取得日数、育児休暇取得数、役員などの女性比率、 研修や自己啓発支援の有無など、かなり細かい項目が続きます。しかも男女差別をなくすため、育児休暇や有給休暇など働き方改革に乗っ取った運営をしているか、計算基準まで示して数値化することが要求されています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000184082.pdf

企業が出す情報を丸呑み
就活エージェント関係者が語る実態

 就活エージェントも就活サイトも、まずこれを見て、その数値をそのまま自社のHPに掲載し、学生の相談資料に入れることになります。つまりは企業の自己申告に頼っているのが、この制度の大きな欠点と言えるでしょう。

 ただ、労働基準監督署からはその後指導があり、就活エージェントが就職をサポートした学生に対しての半年後調査が義務づけられています。定着率はどうか、給与などの条件面に相違がなかったかなどの調査をして、報告することになっています。

「いなば食品」の場合、このような騒動が起きたため、エージェントや就活サイトも内定辞退者に対してフォローをするとともに、「いなば食品」に対しても改善の状況を問い質すべきです。しかし現状では、とりあえず広告を停止するか、あるいは「去年の情報を見て個人で判断してくれ」という、かなりいい加減な情報提供をしていると考えられます。

 本来は、直接問い質して、その内容次第では、今後就職に関する求人広告の掲載や採用サポートに協力しないという措置を、とるべきなのです(実際には、いなば側の結論が出ていないので、どう処理していいのかわからないのが本音でしょう)。

 それだけではなく、青少年雇用情報シートへの記入には罰則規定もあります。また、ハローワークも同様の構造になっていますが、違反があった場合は求人広告の掲載を中止するという罰則もあります。

 問題は、基本が企業の自己申告であるため、労働基準監督署に対して個人ないしは大学が抗議をしないと、なかなか監督官庁が調査や改善に動いてくれないという欠点があることです。しかし、「いなば食品」は静岡の大企業。現在、静岡は「天下分け目の決戦」といわれる川勝知事の辞任による補選が戦われています。与野党の候補者には、この問題がどうなっているのかを監督官庁に聞き、県民に対しても説明する義務があるはずです。