前出の就活エージェントの社長はこのように語りました。

「すでに、2025年卒業生の新卒採用は山場となっているにもかかわらず、昨年同様の告知を行っている就活サイトは、『いなば食品』に以前から広告料金をもらっている以上、監督官庁の調査を待つしか方法がないのかもしれません。しかし、やはりこれからの時代に求められる『働き方改革』のすべてに逆らっている、このような告知違反を行う会社を、私はとても安心して紹介し続けることはできません」

 と説明した上で、こう断言しました。

「ウチの場合、『いなば食品』はもともとリストに入っていませんが、これから学生から相談がきても、推薦しないことにしています。我々は東海地区中心のエージェントですが、今までの経験から言っても、今回の一件は大企業とは思えない、いや中小企業でもやらないような、信じられないアンチモラルな行動だったので、正直、紹介しないのがエージェントとしての義務だと思います。

 たぶん、すべての就活エージェントの考えもそうでしょうが、広告料金をもらっている大手はサイトとしての運用面で苦慮しているはずです。女帝の存在など、週刊誌の記事を見る限り、『いなば食品』の内部が変わらないと、なかなか告知通りの就職はできないように思います。この時期に、新卒採用に関わるすべての役所がまだ動いていないのが不思議です」

 また、今回いなば食品は採用において「労働条件通知書」を出していないとも報道されています。労基法によって、労働条件通知書には必須記載情報があります。それは労働契約期間、更新基準、就業場所、就業時間、賃金・昇給など、法律で文書として発行が義務付けられているものです。しかし実際には、労働条件通知書を発行せず、口約束や面接時の口頭説明のみしかしていない企業もよくあります。「いなば食品」ほどの大企業でも通知書を発行していなかったとすれば、コンプライアンスに重大な疑義がつき、今後、関係各社から忌避される可能性は十二分にあるでしょう。

 すでに、テレビアニメ『わんだふるぷりきゅあ!』(テレビ朝日系)は、4月26日に公式サイトで、いなば食品とのコラボ企画「いなばWanちゅ~る・いなばCIAOちゅ~る×『わんだふるぷりきゅあ!』画像投稿キャンペーン」の中止を発表しました。

「いなば食品」へのゆるい対応は
日本の汚点を海外にも広めかねない

 実は、それ以外にも重大な問題が発生しつつあります。「いなば食品」は、チュールで有名になった日本の企業というだけではありません。大谷翔平選手の所属するロサンゼルス・ドジャースの本拠地であるドジャー・スタジアムに広告を出す契約までとった会社です。

 ロサンゼルス市は毎年5月17日を「オオタニ・ショウヘイ・デー」と決めました。これは、1843年に初めて日本人移民が米国に到着したことから、5月を「アジア太平洋諸島系米国人の文化遺産継承月間」と定めてスタートした企画です。そんな栄光と未来に完全に反する「男女差別と乱れたガバナンス企業」が世界的に有名なスタジアムに広告など出す権利がないことを、関係各官庁はドジャース関係者に早急に伝える必要があります。

 このままいくと、「いなば食品問題」は世界に日本の汚点をさらす危険さえ秘めているのです。

(木俣正剛:元週刊文春・月刊文芸春秋編集長)