そして、つくっている側も、そのことを当然だと思っている。石鹸づくりに込められた思いを伝えようなんて、これまで木村石鹸の誰も考えなかったのだ。これほど丁寧に、いわば哲学を持ってやってきたというのに。

「これを、どうにかして伝えたい」

 戻ってきて初めて、やりたいことが見つかった。

「メーカーは消費者に誠実でなければならない」

 前職のITベンチャーでクライアント企業のマーケティングにかかわる仕事をしていたことが役に立った。ある商品を好きになりファンになるためにはストーリーが必要だ。モノがあふれている現代では、単純にスペックの優位性だけではさほど興味を持ってはもらえない。木村石鹸が長く続けてきた釜焚き製法を、ストーリーとして発信しよう。まずはそう決めた。

「外の人の目」を持ったアトツギが家業の価値を再発見するところから、木村石鹸の初めての自社ブランド「SOMALI」プロジェクトは始まった。

「メーカーは消費者に誠実でいるべき」と
作業工程や原料をほぼすべて公表

 石鹸の歴史は、非常に長い。紀元前からあったようで、その安全性は長い歴史によって証明されている。最近では石鹸に代わる成分が次々と開発され、どんどん進化しているが、それら新しい成分の歴史はせいぜい100年程度。その使用によるアレルギーや遺伝的な影響については、今の時点ではまだ誰にもわからない。

「メーカーは消費者に誠実でなければならない」というのが、木村石鹸の終始一貫した態度だ。世に出回っている商品には、化学成分や添加物の不使用をうたう一方で、それらの効能を補うために別の、より刺激が強い成分を使っているケースもある。消費者が知らないのをいいことにそういう不誠実な商売が横行している現状に何か一石を投じたくて、木村石鹸では、本来メーカーとしては「守秘」対象である作業工程や原料をほぼすべて公表している。

 素材に自信があるからこそたどりついたのが「素材のかたまり」という意味を込めて命名された「SOMALI」だ。純石鹸(100%無添加で、脂肪酸ナトリウムと脂肪酸カリウムが98%以上の石鹸)と天然素材のみで、多様なラインナップ商品のすべてがつくられている。

 ハンドソープ、ボディソープ、台所用石鹸、バスクリーナー、トイレクリーナー、洗濯用液体石鹸、衣料用のリンス剤など多岐にわたって展開されているが、いずれも油を焚く伝統的な製法で石鹸をつくり、洗浄する場所に合わせて脂肪酸の配合率などを変えて、異なった商品に仕上げている。