外国から不当な干渉を受けようが、主権を侵害されようが、日本の外交当局のアクションは、「遺憾」と「抗議」の言葉ばかり。そんな、事なかれ主義がしみついた組織にあって、前・駐オーストラリア大使を務めた筆者は異端の外交官と言ってよいだろう。任国の世論に日本の立場を訴えるべく活発な情報発信を続けていた彼に、キャンベラの左派政権は、「黙れ」のメッセージが。この干渉に対して彼がとった行動とは……!?※本稿は、山上信吾『中国「戦狼外交」と闘う』(文藝春秋)の一部を抜粋・編集したものです。
駐オーストラリア大使の筆者に対し
労働党政権から「黙れ」のメッセージ
岸田文雄総理の西豪州パース訪問も成功裡に終わり、2022年の年末も近づいてきた頃だった。豪州政府筋から日本大使館員に対して、あるメッセージが伝えられた。
「山上大使の活発な対外発信には敬意を表するが、これから豪中関係は微妙な時期に入るので、中国問題についての発言は慎んで欲しい。また、ピーター・ダットン影の内閣野党保守連合リーダーの発言に言及するようなことは厳に控えて欲しい」という内容だった(編集部注/筆者は2020年5月から駐オーストラリア大使。同国では2022年5月の総選挙で対中強硬路線の保守連合が破れ、宥和路線の労働党が政権を握った)。
一体、どう位置付けて受け止めるべきか?
任国たる豪州の政府当局が友好国たる日本国の大使に対して、日豪間の二国間問題について申し入れをしてくるのであればともかく、「(第三国である)中国の問題について発言するな」と言ってきたのだとすれば、これは外交慣例上極めて異例だ。
まさに、驚天動地、言語道断である。「ここまで焼きが回ってしまっているのか」と暗然とすべき筋合いの問題だった。
翻って日本側の事情を論ずれば、日本の外交官の弱さはこのような申し入れを受けた時にも如実に表れる。相手国関係者の不当な干渉もさることながら、そのような干渉はいつでも有り得るとの前提に立ち、干渉を受けたときに如何に反論するかが重要なのだ。
しかしながら、残念なことに、今回もメッセージの受け手となった大使館員が反論した形跡はまるでなかった。
「なんと言って対応してきたのか」と問われると、居心地が悪そうにモジモジとするだけ。またしても、喧嘩慣れしていないお坊ちゃんの対応だった。
「なんということを言うのか!?それはあなたの個人的見解なのか、政府としての見解なのか?中国問題について日本の立場を伝えるのは日本大使の権利でもあれば、職責でもある。一体誰の指示でこんなことを言ってくるのか」
こう反論して欲しかったと切に思った。