「極めて遺憾」「まことに遺憾」――。国際政治の舞台で、日本に不利益が生じた際に、首相や閣僚などが異口同音に発する決まり文句だ。しかし、何の実効性もなく、世間では「遺憾砲」とやゆされている。ウクライナで情報発信力を武器に国民を鼓舞し、世界を味方につけるウォロディミル・ゼレンスキー大統領に、日本のトップである岸田文雄首相は多くを学ぶべきではないか。(イトモス研究所所長 小倉健一)
ゼレンスキー大統領と比べて
残念な岸田首相の発信力
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が類いまれな「発信力」でロシアの猛攻に立ち向かっている。コメディー俳優から大統領に就任した44歳は、ソーシャルメディアやメディア出演などを最大限活用し、ロシア軍の残酷さを訴えるとともにウクライナへのさらなる支援を呼びかける。
戦車や戦闘機といった軍事力で劣勢に立つものの、「情報戦」で優位に立つリーダーは、当初予想された短期間での「首都陥落」を遠ざけた。一瞬で情報が世界中に拡散される時代、わが国は「情報戦」へ備えることはできるのか。
「両国の首都は8193キロメートルを隔てています。平均すると、飛行機で15時間。しかし、自由に対するわれわれの感情、生存への希求、平和への希望にいかほどの距離があるでしょうか。2月24日、私は両国間に何ら距離がないことを理解しました。われわれの首都の間には1ミリの距離もなく、われわれの心に瞬時の差もないことを」
ゼレンスキー大統領は3月23日、日本の国会でオンライン形式の演説を行った。外国元首による同様の演説は史上初めてで「皆さまはチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所のことをご存じかと思います。ウクライナにある原発で、1986年に大きな爆発事故が起きたところです」と福島第1原発の事故を思い出させながら支援を求めた。
「核兵器が使用されれば、世界のいかなる人の信頼も、いかなる国も、完全に破壊されてしまいます」と、唯一の被爆国であるわが国の国会議員らに語りかける姿には、情報発信の重要性を考えさせられる。
では、日本の「発信力」はどうなのか。結論を先に言えば、雄弁なゼレンスキー大統領と寡黙な日本の首相との違いは明らかだ。ゼレンスキー大統領の他国での演説の内容をもう少し振り返りながら、岸田文雄首相の「リーダーとして好ましくない発信姿勢」に言及したい。