外務省だけの問題ではないだろう。今の霞が関の多くの官僚に根付いている事なかれ主義、即興で理路整然と反論することさえ碌にできない口頭のプレゼンテーション能力の決定的な欠如、その背後にある知的怯懦と危険回避性向を改めて目の当たりにし、暗澹たる思いにとらわれた。

「台湾がとられれば、次は尖閣だ」
オーストラリア国防相の高い見識

 前記のメッセージで言及されていた「野党保守連合リーダーの発言への言及」の意味を説明しておく必要があるだろう。

 こういうことだった。

 私が着任以来発出してきた広報レター「南半球便り」がある。日本における豪州の存在感、豪州における日本の存在感の双方を引き上げるべく、ささやかながら自らの発案で続けてきた広報努力でもある。

 大きな行事を実施した際や、外交上の節目を迎えるたびに、私が日本語で散文調に起案し、優秀な豪州人現地職員が英語に訳して、大使館ホームページに掲載してきた。日本語、英語の双方で対外発信に努めていた次第だ(なお、そのうちの50余話を抜粋した本が文藝春秋社から2023年7月末に出版された)。

 その「南半球便り」の第87号で「台湾海峡情勢と豪州」と題して、豪州の台湾問題への関わりを取り上げた。文中では、2021年の保守合同政権時代にナショナル・プレス・クラブで行われたダットン国防大臣(当時。現在は野党保守連合リーダー)の講演に言及していた。

 というのも、ダットン大臣の発言振りが豪州の歴代国防相の中では明らかに踏み込んでおり、長年東シナ海の問題への関与を避けてきた感がある豪州として、日本にとって望ましい形で関心と関与を示してくれたからだった。

 具体的には、ダットン大臣は台湾海峡情勢に強く警鐘を鳴らし、「台湾がとられれば、次は尖閣だ」とまで喝破した。そして、尖閣諸島への言及に当たっては、「尖閣」と日本側呼称のみを使用し、中国側名称に言及することは一切なかったのである。

 私は、この一連の発言を広報レターで取り上げるとともに、尖閣諸島の領有権について国際法的には全く野放図な相手方(中国側)主張を退ける姿勢を明確にしたと記述した。