「高額な買い物は消費税増税前がお得では?」「アベノミクスで給料が上がりそうだし」……などといった理由で、マイホーム購入を検討する人が増えています。しかし、買い急ぐあまりにマイホーム購入の“禁じ手”を使ってしまうケースも多いので注意が必要です。累計11万部を超えるロングセラー『住宅ローンはこうして借りなさい 改訂4版』の著者・深田晶恵さんが、今回から4回にわたり、今こそ知っておきたい「マイホーム購入の禁じ手」を紹介します。

景気回復で、給料が上がりそう!?
アベノミクスを理由に家を買っては危険!

 安倍首相が経済界に賃上げを要請し、ローソンやセブン&アイ・ホールディングスなどが年収アップを発表したのは記憶に新しいところ。自動車メーカーや大手電機メーカーでは、2013年の春闘でボーナスの満額回答が相次ぎました。近年は「給料が上がらない時代」と言われ続けましたが、「アベノミクスで自分の給料も上がるかもしれない」と期待している方も多いのではないでしょうか。

「消費税増税を控えているから、高額な買い物は今がチャンスでは?」「景気が回復すれば、給料も不動産価格も上がるかもしれないし……」「いずれは住宅ローン金利も上がるはず」などと考え、景気のいいニュースに背中を押されて、住宅購入を急ぐ人が増えそうです。

深田晶恵(ふかた あきえ)
ファイナンシャルプランナー(CFP)、(株)生活設計塾クルー取締役。1967年、北海道生まれ。外資系電機メーカーを退職後、96年にFPに転身。日本経済新聞、日経WOMAN、日経ビジネスAssocie等でマネーコラムを連載中。国土交通省「住宅ローン商品改善ワーキングチーム」および「消費者保護のための住宅ローンに係る情報提供検討会」、住宅金融普及協会「住宅ローンアドバイザー運営委員会」委員を歴任。こうした委員会で金融機関と不動産事業者に住宅ローンのリスクの説明を義務づけるガイドライン作りを提唱するのが目下のライフワーク。主な著書に『30代で知っておきたい「お金」の習慣』『「投資で失敗したくない」と思ったら、まず読む本』他多数。
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生活設計塾クルー
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 しかし、「給料が右肩上がりにアップするだろう」という前提で住宅ローンを組むのはNGです。

過去のデータをみると
企業が儲かっても給与には反映されない

 第一に、今回の年収アップや一時金満額回答の背景をよく考えてみる必要があります。いち早く年収アップを発表して注目を集めたのはローソンでしたが、同社社長の新浪剛史氏は安倍首相が議長を務める「産業競争力会議」の委員。春闘で満額回答を出した企業は経団連の主要メンバーであり、安倍政権に近い立場にあります。いずれも、「アベノミクスへの貢献を率先して示すことが自社にとってメリットになる」という考えがあっての行動だと見ておいたほうがいいでしょう。

 過去のデータを振り返ると、2003年から2007年までは企業収益が前年比プラスで推移しており、2003年〜2005年の3年間は年率2ケタ以上も伸びていたのに、この間、従業員の賃金の伸び率はマイナスか、増えてもプラス1%でしかありませんでした。これまで企業の経営陣は、長期にわたり、従業員の生活よりも自社の存続を優先してきたのです。アベノミクスで経営陣が“改心”したと考えるのは、早計ではないでしょうか。短期的には給料が上がることもあるかもしれませんが、長期的な右肩上がりの上昇は期待薄だと思います。特に「一時金満額回答」については、ボーナスが業績しだいであることを考えれば、一時的なものととらえておくのが無難でしょう。今後の収入が継続的にアップする保証は、どこにもありません。