習政権による民営企業への締め付けが強くなり、中国では経済成長の失速に一層拍車がかかっている。金融市場は国有銀行によって独占されており、担保資産を有さない零細企業は違法な地下銀行に頼らざるを得ない状況で、零細企業の新たな資金調達先や一般家計の手軽な投資先として、ネットファイナンスが注目を集めているという。しかし、ルール整備が追いつかず、詐欺やトラブルも多発しているようで……。※本稿は、柯隆『中国不動産バブル』(文春新書)の一部を抜粋・編集したものです。
「繰り返し収穫できる韮のようにコスパがいい」
搾取されるだけの低所得層
この社会では富が下から上へ吸い上げられるスピードが予想以上に速い。中国の消費を牽引し支えてきたのは一握りの富裕層と中間所得層である。低所得層は搾取されるばかりで、なすすべはない。清華大学の歴史学者である秦輝教授は、中国経済にとっての比較優位は低人権の優位であると指摘している。経済開発において人権を無視できるため、あり得ない低賃金を実現でき、中国は世界の工場になれたということだ。
中国では庶民のことを野菜の「韮(にら)」と揶揄することが多い。韮は収穫するとき、根元を残して切って出荷するが、しばらくすると新芽が出てくるので何回も収穫できる。効率がいいという点で、中国の庶民は韮とよく似ているのだ。
習近平政権が誕生したころ、10年前の中国の大都市はネオンが輝き、高級レストラン前には外国製の高級車がずらりと並び、贅沢三昧の食事を楽しむ高級幹部と会社経営者たちで賑わっていた。10人1卓の食事は飲み物込みで安くても数千人民元、高い場合は数万、数十万人民元も珍しくない。当時の為替レートで考えると、数十万人民元は数百万円になるので、日本の接待ではありえない金額だ。中国の会社経営者からすれば、数十万人民元でそれなりのビジネスの商談が決まると考えれば安いものなのだろう。
むろん、庶民はこんな贅沢な生活とは無縁である。中国の農家のエンゲル係数(食費÷消費支出)は依然50%以上である。都市部の住民の平均エンゲル係数も40%以上だ。2023年10月に亡くなった李克強前首相は在任中の記者会見で、中国には月収が1000元前後の人口が6億人存在すると述べたことがある。習政権は共同富裕を提唱し、貧困はすでに撲滅したと豪語しているが、少なくとも世界銀行と国連の基準では、中国の貧困問題はまだ深刻な状況にあると言っていい。
コロナ禍は中国社会に影を落とし、中国人の消費行動も大きく変化している。中小零細企業は相次いで倒産し、大手不動産デベロッパーはデフォルトを起こし、中国経済を牽引するエンジンが失速してしまった。最近の消費者物価指数はマイナス推移となり、内需が大きく落ち込んでいる。経済成長の失速に拍車をかけているのは、習政権による民営企業への締め付けの強化である。
同時に反スパイ法が改正・施行され、外国企業は中国にある工場をほかの新興国へ移転している。これらの動きのいずれもが、失業者を増やすことにつながっている。コロナ後、日本にはインバウンドの外国人観光客が戻ってきているが、中国人観光客については思ったより戻ってきていない。多くの中国人は消費より家計を守る貯蓄性向を高めている。