収益性と安全性がネックとなり
くすぶる中国の投資需要

 中国人のお金の貸し借りについて、近年大きな変化がみられる。従来は地域密着型がほとんどだったが、2000年代に入ると、インターネットを介して資金の融通が行われるようになった。P2Pと呼ばれるネットファイナンスである。P2Pは2010年代以降に急成長を成し遂げた。その背景には、旺盛な資金需要、投資意欲の強い個人、中央銀行の金融引き締め政策、インターネットの普及などがある。

 問題は借り手の資格審査がきちんと行われていないため、詐欺などのトラブルも多発していることだ。借り手の資質に加えて、P2Pサービスを提供するプラットフォーマー企業の資質も問われはじめている。もともと中国では金融市場が開放されておらず、金融サービス業への参入は厳しく規制されている。しかし、インターネットというものの特殊性と借り手企業の旺盛な資金需要に加え、一般家計の投資意欲も強いため、P2Pを中心としてネットファイナンスは急成長した。それに対する監督とルール化が追いつかず、トラブルが多発するようになった。

 コロナ禍を経て、中国では貯蓄性向が高まり、投資需要が盛んになっている。しかし、安心して投資できる金融商品が少ないため、中国人の巨額の貯蓄はマグマのようにうねりながら右往左往している。国有銀行を介する金融仲介は非効率であるため、中国における資金配分は極端に効率が悪い。家計の投資行動は、収益性、安全性と流動性のバランスを取りながら、ポートフォリオを最適化すると思われる。

書影『中国不動産バブル』(文春新書)『中国不動産バブル』(文春新書)
柯隆 著

 日本人は安全性と流動性を大事にする傾向が強いように思われるが、中国人は収益を最大化しようとする傾向が強い。収益性を大事にしすぎるあまり、リスク管理が粗末になる傾向がある。証券投資がその例だが、不動産投資も同じである。不動産バブルの崩壊は、不動産投資を行っている家庭にとっては悪夢となるだろう。

 なぜ中国人はリスク管理を粗末にしてまで利益を最大化しようとするのか。中国人が欲張りだからといわれると、そうかもしれないが、これまでの成功体験が背景にあるのかもしれない。この30年間、中国は奇跡的な経済成長を成し遂げ大成功した。そのため中国人は、将来に対して無意識のうちに楽観的になっている。成長するのが当たり前であり、成長が鈍化するのは一時的なことに過ぎないと思っているのだ。将来を見通すバランス感覚に著しく欠けているといえよう。