下請けを含む自動車業界全体の給料も
完成車メーカーの「人=コスト」思考のせいで上がらない

 そのシンボルともいえるのが日産による“下請けいじめ問題”です。

 原材料費やエネルギー価格が上昇しているにもかかわらず、下請けメーカーからの値上げ要請を認めないことから、日産は公取委からの指導を受けました。現場ではまったく変わらない“下請けいじめ”が続いていることが現在進行形で問題になっているのです。

 日産は5月31日に記者会見を開きましたが、報道された問題については「法令違反と判断できる状況ではない」という見解です。

 この構図はシンプルにいえば、日産の従業員は政府の要請どおりの賃上げを行う一方で、日産の取引先には賃上げを認めない強い政策を取っているということです。

 なにしろ、製造原価に相当する部品のコスト上昇分について購買価格を上げないといっているのです。原材料費とエネルギーコストが上がっている以上、部品メーカーはどう考えても人件費を上げるのは無理です。

 そしてここが問題なのですが、一次、二次…五次といった具合で多層のピラミッド構造になっている自動車業界の労働人口は、業界全体でみると完成車メーカーの4.8倍の労働人口を抱えています。

 そのため、完成車メーカーの購買が一次メーカーの部品の値上げを認めない以上、その先の二次、三次、四次、五次の賃金も上がりません。つまり日産を放置している限りは業界の大半の労働者の賃金は上がらないのです。

 自動車業界では唯一トヨタが今期の予算の中に仕入れ先、販売店の人への投資予算3000億円を計上しましたが、これを受けた日本商工会議所の小林健会頭は名指しを避けたもののそれでは足りないと批判しました。下請けへの支払いを1兆円増やすべきだというのです。