競馬写真はイメージです Photo:PIXTA

我を忘れるほど熱中できる物事があると、それによって思いもよらぬ方向へと導かれ、その人の人生を豊かにしてくれることもある。型破りな道を歩んだ成功者たちを研究する「ダークホース・プロジェクト」を通じて、従来の成功の道から外れた人々の偏愛と衝動のあり方に迫る。本稿は、谷川嘉浩『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

高校中退したアマチュア天文学者が
新惑星を発見という歴史的快挙

 心理学者のトッド・ローズとオギ・オーガスは、通常想定される成功のレール、定石的なキャリア、大半の人が信じる道を外れ、回り道や型破りに見えるような独特な道行きを選んできた人に関する研究をしています。その名も、ダークホース・プロジェクト。外れ者の研究プロジェクトに、ふさわしい名前ですね。

「天文学者として成功するには、博士課程の学位を取得し、名のある大学で博士課程修了後の研究期間を終え、終身制の教授職に落ち着くというのがふつうである。オーダーメイドのテーラーとして成功するには、若いうちからファッションへの情熱を抱き、そのままコツコツと着実に腕を磨き、ひとりの師匠の下で何年も修業を積むというのが決まりのルートだ」。

 しかし、ローズとオーガスが取り上げたのは、15歳で高校を中退したニュージーランドのシングルマザーのジェニー・マコーミックや、大学の学費のために始めたバーテンから多数事業を展開する事業家となり、大学を辞したアラン・ルーローのような、人生のレールを外れた人物です。

 ジェニー・マコーミックは、高卒認定試験にも落第したほどだった。けれども、20代の半ばにカルデラ盆地で夜空を見つめ、そのありように圧倒されて以来、プラネタリウムで講師を捕まえて助言や支援をもらいながら天文学を学ぶようになり、自宅に高度な技術を使った天文台をつくるまでになった。そしてついにマコーミックは、アマチュアの天文家として新惑星を発見した。1781年以来の快挙だった。

 アラン・ルーローは、大学を辞してまで取り組んだ事業が順風満帆なタイミングで人生に漠然とした不満を抱いていることを自覚し、すべての会社を売り払ってボストンに移住した。

 経営は好調だったので、「狂気の沙汰とは言われないまでも、リスクが高いと思われるのはもっともなこと」だった。ルーローは、何がやりたいことなのかもわからないまま過ごしていたボストンで、いくつもの偶然が積み重なった結果、仕立て屋をオープンして発注を取ってしまう。小売りや服飾にそれまで関心がなかった上に、裁縫はもちろんものづくりの経験や技術がなかったにもかかわらず。しかし、彼は初めてスーツを作った2年後にナショナル・ファッション・アワードの受賞者の1人に選ばれた。