心理的安全性は「やさしさ」ではない――組織学習の土台

篠田 そこで、いよいよ心理的安全性ですね。まず気になっているのが、世の中ではいまだにこの概念のことを誤解している人がまだまだ多いんじゃないかということです。

 いちばん多いのが「自分がふんわりと大事にされて、みんなが私に嫌なことを言わない」みたいな解釈ですね。でも、エドモンドソンさんの本を読むと、これとはかなりかけ離れた状態が想定されている。むしろ、私がなにか意見を言ったときに、村瀬さんが「いや、篠田さん、その考えはぜんぜん違うと思いますよ」とズバッと言い返せるようなイメージです。

 ですが、「心理的安全性ってこういうことだと思いますよ」と他の人に説明すると、けっこうポカンとされてしまう。ここに大きな理解のずれがあるなと感じています。

村瀬 エドモンドソンはずっと「組織学習」を研究してきた人です。組織が変化していくうえでは学ぶことが不可欠なので、学習というのは個人だけでなく企業なんかにとっても、ものすごく重要なテーマなんですね。

 組織の学習にとって必要なのが、そこに所属する人たちの知識やアイデアをお互いに「共有」することです。でも、同じ組織にいると、どうしても「言いづらいこと」「聞きたくないこと」が出てきてしまって、情報が共有されなくなってしまう。

 だから組織学習を達成するためには、いかにして「言いづらいことを言う」「聞きたくないことを聞く」といった行動を促すかが問題になるわけです。そして、そのための1つの軸として出てきたのが「心理的安全性」であると。こういう背景があるので、そもそも「とにかく人を大事にしましょう」みたいな話ではないんですよね。

篠田 めちゃくちゃわかりやすい! 心理的安全性という言葉だけが独り歩きするときには、その観点が忘れられがちだなと改めて思いました。目的はあくまでも組織学習、つまりチームみんなで学ぶということであって、まずそっちが先にあるわけですよね。