「一緒に働いている=チーム」ではない

篠田 なるほど、よくわかりました! ありがとうございます。今日はおもに心理的安全性がテーマということですが、この概念って私もおそらく理解しきれていないところがあるし、世の中にはまだまだ誤解している人がたくさんいるなという感覚があります。ですから、いくつか「そもそも」のお話からはじめても大丈夫でしょうか?

村瀬 ぜひよろしくお願いします。

篠田 まず伺ってみたいのが「チームってなに?」ということです。私たちビジネスパーソンって、なにげなく「チーム」とか「組織」という単語を使っていますよね。あるいは、よくあるのが「これは会社が悪い」というような言い方だったり…。

 私は経営者の立場でもあるので、そういう言葉に出会うと「“会社”ってだれのこと?」って突っ込みたくなるんです。そう考えはじめると、私たちのまわりでは「チームが…」とか「会社が…」という謎の主語が飛び交っているように感じるんですよね。

村瀬 多くの人は、同じ職場で働いている人たちが、その中で決まった役割を果たしている集団のことを「チーム」と呼んでいるんじゃないかと思います。ですが厳密に言うと、それだけではチームだとは言えません。

 ある集団をチームと呼べるかどうかは「決まったゴールが共有されているか」によります。その意味では、プロジェクトチームとかに近いイメージですね。

「このゴールに向かってみんなでつくり上げていきましょう」という意識がみんなに共有されていないと、個人レベルでは成果が出ていても、全体としては「失敗する、負ける」という現象が起きてしまう。つまり、ゴールの共有がないままだと、チームとしてまともに機能しないわけです。

篠田 なるほど、わかりやすいですね。すごく単純化した例ですが、たとえば5人の営業部署があって、全体の目標が「半期で1億円」なのに、各人に「あなたの目標は2000万円ですよ」としか伝えなかったりすると、この部署は「チーム」にはなれないわけですね。「私はもう2000万円は達成したから、あとはみなさんよろしく〜」と言い出す人が出てきてしまう。

村瀬 そうですね。こうなってしまうと、本来のチームでありません。だからこそ、部署とか部門の全体に「運命共同体」としての意識を持ってもらうことがすごく重要になります。

 たとえば、大きな営業部門の下に第1・第2・第3の課があったとき、しばしば課ごとに設定された目標ばかりが意識されていて、部門全体のゴールがメンバーに共有されてなかったりするわけです。すると、第1課だけはめちゃくちゃパフォーマンスが高いけれど、残り2つのパフォーマンスが低かったりして、部門全体の成績も振るわないという事態が起きてくる。

篠田 いかにもありそうなお話ですね。

村瀬 ちゃんと部門全体の目標に目を向けられていれば、たとえばあらかじめ課同士で情報を共有して、同じお客さんを取り合ったりするのを避けられるかもしれないし、もっとお互いを助け合ったりして、各課の平均パフォーマンスが上げられたかもしれない。こういうケースって珍しくないと思います。

 組織の構造が大きくなればなるほど、運命共同体としての感覚は薄くなりがちです。そこが組織運営の難しさですね。