バッタ研究者である筆者は、実験室育ちの個体ばかりを観察してきて、野外調査に関しては経験不足なのが悩みのタネ。野生環境のバッタを調査するノウハウを得るためには、先輩研究者のフィールドワークぶりをその目でみるのが一番の近道だ。そう考えた彼が向かった先は、アメリカだった。本稿は、前野 ウルド 浩太郎『バッタを倒すぜ アフリカで』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。
アメリカの文通相手を頼って
武者修業に出ることを決断
バッタ研究界隈では、色々なテーマを手広くやっている研究者もいるが、やはり現代でも得意分野を絞り、一つの研究テーマを深める研究者が多いように感じていた。
サバクトビバッタに関して、野外での生態に興味を持ち、手広く研究している研究者は見当たらなかった。ならば、別のバッタを対象に手広く研究している人はいないか調べようとしたところ、なんと以前からの文通相手のアメリカ人が、まさに意中の人だった。
教えを乞いにアメリカに渡ることにしたが、自腹でいくしかない。渡米には17万円かかる。私はギャンブルの類は一切せず、堅実に暮らしてきたつもりだが、33歳にして貯金はざっと130万円。物価の安いモーリタニア(編集部注/筆者はサバクトビバッタの研究のため、2011年4月にモーリタニアに渡った。この研究活動が認められ、現地のミドルネーム「ウルド(○○の子孫の意)」を授かる)なら、1年間はバイトをせずに暮らしていける金額だが、自己投資というか、使うべきところに使わなければ、自身の成長は望めない。覚悟を決め、大枚をはたき、人生の勝負に出た。
文通相手は、イリノイ州立大学のホイットマン教授。アリゾナ砂漠をフィールドにバッタ研究の経験があり、Journal of Orthoptera Research(バッタ目研究専門誌)の副編集長も務めていた。
まだ私が日本にいた頃、別の雑誌に投稿した論文を読んで、私の研究に興味を抱いてくれた。ホイットマン教授にモーリタニアに行くことを告げると、こんな研究をしてみたらとアドバイスをくれたり、定期的に研究の進捗状況を教えてくれと言われたり、関心を抱いてくれた。それ以降、文通していたのだ。
昆虫の研究にスパゲティを使う
画期的なアイデアを気に入られた
モーリタニアでバッタがいなくなったとき、ゴミムシダマシ(ゴミダマ)に腹一杯スパゲティを食わせてから頭を身体にめり込ませるように押し付けると、腹部先端から交尾器がニュッと出て、解剖せずとも雌雄の判別ができるという発見をした(編集部注/2011年後半の大干ばつでエサとなる植物がなくなり、バッタがいなくなったため、研究対象を一時的にゴミダマに変えた。詳細は著書『バッタを倒しにアフリカへ』に掲載)。