ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。

産後にパリジェンヌがみんなしている意外なこととは?Photo: Adobe Stock

38歳になった時おこった、私の世界観を覆す出来事

 ラグジュアリー・ブランドの世界に飛び込んで以来、私は幾つもの修羅場を潜り抜けてきました。出張でレバノン、キューバ、イースター島と、予想外の場所を訪れ、世界各地でいろいろな価値観の人と出会いました。社会の変革を唱えるリーダー、既成概念を破るアーティスト、全財産を慈善事業に注ぎ込む実業家など、スケールの大きい人達との出会いにも恵まれました。

 だからといって私の世界観が変わったかといえば、そうではありません。キャリアを通じて学んできたことは私の血となり、肉となり、糧となってきましたが、私を根本的に揺るがすことはありませんでした。

 私の世界観を覆す出来事は、私が38歳になった時、キャリアとは全く別の次元で起こりました。再婚相手との間にできた娘の誕生です。

自分のキャリア、自分の幸せを中心に回っていた世の中が、娘を中心に回り始めた

 正直言うと、それまでの私は「子どもが欲しい」などと考えたこともありませんでした。仕事に無我夢中でそんなことを考える余裕すらなかったと言ってもよいかもしれません。周りから「そろそろ産まないの?」という類のプレッシャーが一切なかったことも影響していると思います。

 娘が生まれた瞬間、私はそれまで信じていた天動説が地動説にひっくり返されたような衝撃を受けました。これまで自分のキャリア、自分の幸せを中心に回っていた世の中が、娘を中心に回り始めたのです。この世界に自分よりも大切な存在が出来てしまったのです。

 4ヵ月の産休はあっという間に過ぎてしまいました。娘を預けてイザ、出社する初日、私は身を引き剥がされるような思いでした。これだけ自分を必要としている小さな、小さな生き物を置いていくのです。自分の血を分けた無力で、無垢な赤ん坊。その我が子を「はい、よろしくね!」と他人に預けて颯爽と出勤する気にはどうしてもなれないのです。それは今までに経験したことのない苦しみでした。

(何かが間違っている……)

 そう思いながら出勤する足取りは重く、その場で辞表を提出したくなってしまったくらいです。