ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。

なぜパリジェンヌはすっぴんが好きなのか?Photo: Adobe Stock

ふと気づきました。入社以来、お手洗いでお化粧直しをする人を見たことがなかったのです

 フサフサの栗毛が印象的なファッションPRのファニーは、絶えず何かを批判している典型的なパリジェンヌです。その辛辣な口調がオモシロおかしいせいか、オフィスでは人気者の彼女ですが、私はあまり好きになれませんでした。偉そうな態度が鼻につくのです。できることなら関わりたくない。そう思って私が避けていた人でした。

 そんな私を彼女も気に食わなかったのでしょう。ある日のこと。会議で私が企画構成したプレス資料をファニーが真っ向から批判してきました。意表を突かれた私は機転が利かず、言い返すこともできませんでした。煮えくりかえる気持ちを静めるためにお手洗いに駆け込んだ時のことです。

(使い勝手、悪いなー)

 悔し涙で滲んでしまったアイラインを直していた私は苦戦していました。広報部がある本社の3階は女性が大半を占めており、女子のお手洗いには人が絶えません。けれども洗面所が妙に暗いのです。しかも洗面台の奥行きが深い上に、鏡が遠い。つま先立ちで鏡を覗き込んでいた私はその時、ふと気づきました。入社以来、お手洗いでお化粧直しをする人を見たことがないのです。

プールサイドから今戻ってきたような爽快感をかもし出し、素敵なのです

 オープンスペースの自席に戻り、注意して周りを見てみると、きちんとメイクをしているのは私だけです。うそみたいな話ですが、みんなすっぴんなのです。派手な色のマニキュアを欠かさない、小悪魔ギャル風の同僚ソフィアでさえ、完全なるすっぴんです。

(たまたまかもしれない。若い子が多い、PRのオフィスに限ったことかもしれない)

 そう思った私は翌日、用もないのに法務部や財務部がある廊下をうろうろし、自動販売機があるカフェコーナーに居座って、まずいコーヒーを何杯も啜りながら目を凝らして観察しました。

 やはりほとんどの人がすっぴんです。アネゴこと広報部の怖いお局さまも、さんさんと日が射す会議室で観察してみると、潔いかな、ドすっぴんです。小麦色の肌は化粧っ気ゼロ。しわも、くすみも、シミも、隠す努力は一切していません。でも不思議とそれが、プールサイドから今戻ってきたような爽快感をかもし出し、素敵なのです。そしてそれに注目する人もいなければ、それを「おかしい」と指摘する人もいません。すっぴんが当たり前、そんな空気が流れています。会議もそっちのけで考え込んでしまいました。