世界経済のすべての活動を
自国利益にできるシステムを構築

 イギリスは世界最大の海運国家として海運をコントロールするとともに、世界の電信の大半を敷設した。そのため、世界の多くの商業情報はイギリス製の電信を伝わって流れた。イギリスは世界の情報の中心となったばかりでなく、送金をはじめとする、さまざまな経済的利益を得ることができた。世界の貿易額が増えれば増えるほど、送金はロンドンで決済されることになり、そのため手数料収入が増加した。海運と電信によりイギリスは、世界経済のすべての活動を自国の利益にできるシステムを構築したのである。

 そのためイギリスは、たとえ工業生産では世界第1位の国ではなくなったとしても、何も困ることはなく、むしろ、世界の他地域の経済成長がイギリスの富を増大させることにつながったというのが現実であった。イギリスはコミッション・キャピタリズムの国となり、その影響は、現在も強く残っているのだ。

 コミッション・キャピタリズムについて論じていくうえで、電信は世界を根本的に変えた。

 しかし現代のわれわれは、日常生活で電信を使うことなどあまりない。せいぜい銀行振込のとき、「電信決済」を用いることがある程度だろう。だが、そのときでさえ電信の重要性を理解しているわけではない。

 電信によって初めて、人類が動くよりも速く情報が伝達されるようになった。たしかにそれ以前にも、腕木通信を使ったり狼煙をあげたりして、情報を伝えることはあった。また、伝書鳩を使って情報が伝えられることもあった。

 現在でも、ローマ法王の選挙(コンクラーベ)では、法王が決定したかどうかは煙の色で伝えられる。しかし、煙の色を使ったとしても、きわめてかぎられた情報しか伝えられない。また、視界に入る範囲の情報しか入手できず、雨や霧のために正確な情報の入手が困難になることもあった。そもそも煙の色が何を意味するのか、前もって知っておかなければならない。それに対し電信は、はるかに多くの情報を、しかもずっと離れた場所にまで瞬時のうちに伝えることを可能にした。