世界の情報通信と貿易決済において、それ以前と決定的な違いをもたらしたのは、電信だったのである。

電信という「見えざる武器」で
イギリスは金融の支配者に

 電信は、ダニエル・ヘッドリクによって、「見えざる武器」と呼ばれた。電信により、世界各地がたちまちのうちに結びつけられた。そしてイギリスは、圧倒的な情報の優位者となり、それを利用して金融上の支配者となった。

 イギリスは、広大な帝国を築いた。そこには、多数の異文化間交易圏が含まれた。それ以前なら、弱い紐帯しかなかったそれらの交易圏が、蒸気船・蒸気機関車・電信によって統合されることになった。イギリスにより、世界は大きく縮まったのだ。もちろんイギリスに強固に結びつけられた地域もあれば、電信の影響が弱く、さほどではなかった地域もあったろう。ともあれ電信によって、異文化間交易が非常に簡単になり、商業取引のコストが大きく下がったことは間違いない。

 電信は、それまでヒトがつないでいた世界をインビジブルなもので結んだ。だからこそ余計に世界は強く結ばれたのである。それは現在のわれわれが、インターネットによって結びつけられているのと、よく似ているのである。

 イギリスは大艦隊をもっていたが、軍事的負担の多く、少なくとも一部は、植民地に負担させることができた。イギリスの植民地だけではなく、欧米列強の植民地が、イギリス船を使用した。また、イギリスの電信は世界中で使われた。そのため世界経済が成長し、貿易量が増えれば増えるほど、イギリスに手数料収入が流入することになった。イギリスは、まさにコミッション・キャピタリズムの国だったのである。

 イギリスのヘゲモニーは、工業生産というより、むしろ電信のためであった。