日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする。(撮影/疋田千里、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)
比較にならないほど
日本がイギリスに負けているもの
――日本の経済力、英語力以外で、日本にアニマルスピリッツがなかなか根付かない原因はありますでしょうか?
徳成旨亮(以下、徳成) 資本主義における富の蓄積が違う、というのが僕の思っていることです。日本は資本主義経済になったのが、所詮は明治以降と浅いんですよ。それも長めに見た場合であって、本当は第二次大戦後にいったんやり直してますから。
三菱財閥を作った岩崎家とか、住友財閥の住友家とか、当時はものすごいお金持ちでしたけど、戦後の財閥解体の影響を受けている。だから厳密には、戦後から富の蓄積が始まったに過ぎない、とも言える。
もちろん、日本にも、それなりにお金を持っている方がたくさんいらっしゃいますけど、知れているんですよね。英国の元貴族を含めた欧米の金持ちとはケタが違う。
堀内勉(以下、堀内) 私の友人に、Fei-Fei Huという42歳の中国とイギリスの二重国籍の方がいます。彼は上海出身なのですが、小学校から大学まで日本で育って、途中で南アフリカにもいたのですが、イギリスのオックスフォード大学でも学び、その後、英国王室で当時のチャールズ皇太子の側近として働いていたという特異な経歴の持ち主です。今は日本に戻って、東京と千葉でフェニックスハウスやラグビースクールジャパンなどのインターナショナルスクールを経営しています。
その彼が今、北海道のニセコで新しいコンセプトのインターナショナルスクールの設立を計画しています。私もそれに協力しているので、学校を中心とした街づくりの参考にするために、オックスフォード大学やラグビースクール、チャールズ国王が皇太子時代に開発を手掛けたロンドン南西の街・パウンドベリーなど、色々と見にいきました。
たとえば、パブリックスクールのひとつでラグビー発祥の地であるラグビースクールの本校は、敷地面積が200ヘクタールほどあります。坪に置き換えると60万坪ですね。六本木ヒルズの16~17個分という感じでしょうか。それだけ広い敷地に、生徒が800人ほどしかいないのです。
私は麻布学園の出身ですが、あそこは中高含め、元麻布の狭い敷地に1800人ぐらいの生徒が通っています。ラグビースクールは年間授業料が約4万5000ポンド、日本円で800万円ぐらいでしょうか。これに対して、麻布学園は約60万円です。
こうした授業料の格差もすごいのですが、それ以上に注目すべきなのは、あちらは大英帝国時代に築いた資産の蓄積がすごいということです。校舎は全部レンガ造りの立派なものだし、ラグビー場も1面だけではなくて、5面か6面ぐらいある。そのインフラの違いは全く比較の対象にならないです。つまり、超優良なバランスシート(賃借対照表)を持っているんですね。
GDP(国内総生産)というのはフローを表現しているものですから、企業で言えば粗利益と言うか、PL(損益計算書)の項目に相当するものです。そこで私たちはPLが大きいとか小さいとか競っているかもしれませんが、そもそもBS(貸借対照表、バランスシート)が超優良で含み益が山のようにある。
イギリスの上流教育というのはそうした感じなんですよね。フローだけ見て「すごいだろう」「ダメだな」と一喜一憂している人たちと、膨大なストックがあって超優良なバランスシートを持っている人たちと、そもそも比較にならない。
彼らのストックは何千兆円か何京円か分からないですが、それをさて置いておいて、「フローの部分はイギリスより日本のほうが大きいよね」とか威張ってみても、そこだけでは比較にならないと感じるのです。
多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長、一般社団法人100年企業戦略研究所所長、一般社団法人アジアソサエティ・ジャパンセンター理事兼アート委員会共同委員長、ボルテックス取締役会長他。
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、東京大学Executive Management Program(東大EMP)修了。日本興業銀行(現みずほFG)、ゴールドマン・サックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)、アクアイグニス取締役会長等を歴任。資本主義の研究をライフワークにしており、多くの学者・ビジネスパーソンと「資本主義研究会」を主催している。著書に『人生を変える読書』(学研)、『読書大全』(日経BP)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)などがある。