中国のEC企業SHEINが、英国でIPOに向けた準備を進めており、評価額は日本円で約10兆円強になるとも伝えられている。SHEINが「脱中国化」したとの報道もあるが、本当なのだろうか。むしろ、SHEINの戦略は中国の経済政策に見事に合致する。ただ、労働者の酷使や、ユニクロから「デザイン盗用」疑惑で訴えられるなどの問題も抱えている。(北京理工大学教師 吉田陽介)
世界トップのECアプリ「SHEIN」
英でのIPO、評価額は約10兆円か
2008年に設立された中国のファッション通販サイト「SHEIN」(希音)が、主にZ世代の支持を得て、躍進を続けている。23年には世界のショッピング系アプリダウンロードランキングでトップに輝いた。また、23年の「全米で最も成長しているブランドトップ10」にも選ばれ、ChatGPT、OpenAI、Facebook、コカコーラなどと肩を並べる快挙を成し遂げた。
そして最近の報道では、SHEINが英ロンドン市場でのIPO(新規株式公開)に向けて準備を進めており、上場すれば、評価額は約500億ポンド(10兆円強)になると伝えられている。
実は、SHEINは23年11月に、非公式に米国でのIPOを申請したとされる。当時、同社の企業価値が約660億ドルであったことから、「ここ数年で最大規模のIPOになる」(米ウォール・ストリート・ジャーナル紙)とみられていた。
24年2月5日付の中国「斉魯壹点」の記事では、SHEINは米国への上場のために、「脱中国化」を進めたと指摘した(以下、引用の要約)。
「SHEINは15年に拠点を南京から広州へ移し、現地のアパレル産業と独自のサプライチェーンを構築し、海外市場を視野に入れるようになった。そうして22年に、本拠地をシンガポールに移して、会計や法務などの人材を現地で大量雇用した。その後、米国上場を目指すため、SHEINは傘下にある中国企業の登録を取り消した。SHEINの創始者である許仰天氏の居住地も、シンガポールとなった。」
だが、SHEINはファストファッション世界大手のH&Mやユニクロと商標権や著作権でトラブルになったことが影響してか、米国での株式上場は叶わず、英国へ方向転換した。
筆者は、SHEINが「脱中国」になったとは思わない。むしろ、SHEINの戦略は対外開放を強化するという中国の経済政策に見事に合致する。また、サプライチェーンも中国にあるため、同国から完全に離れたとは言えない。
ただ、その戦略にも問題がないというわけではない。「働く人=財産」という発想がないためか労働者を酷使したり、ユニクロから「デザイン盗用」疑惑で訴えられたりするなど、「モラルに反する企業」のレッテルを払拭する必要があるのだ。どういうことか、詳しく解説しよう。