どんな人でも確実に頭がよくなり、心も鍛えられる。しかも、誰でもどこでもできて、お金もほとんどかからない。そんなシンプルな方法を紹介し、ロングセラーになっているのが、『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』(赤羽雄二著)だ。著者は、メーカーを経てマッキンゼーで活躍。大企業の経営改革や経営人材育成などに取り組んでいる人物。その驚きのトレーニング方法とは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

ゼロ秒思考Photo: Adobe Stock

人間は本来みな頭がいいはずなのに

「考えをすぐに言語化できるようになった」「自己肯定感が上がった」「心の中のモヤモヤがなくなった」「すぐに行動できるようになった」……。

 そんな声が続々と寄せられているのが赤羽雄二氏による「ゼロ秒思考」という思考法だ。

 このメソッドは「メモ書き」によって、思考と感情の言語化をトレーニングするというもので、30数年にわたって改良と実践がなされ、すでに数十万人の人たちが効果を実感しているという。

 そして、「ゼロ秒」とは、そのトレーニングの結果として、「瞬時に現状を認識をし、瞬時に課題を整理し、瞬時に解決策を考え、瞬時にどう動くべきか意思決定できることだ」と著者は説く。それが実現できるようになるというのだ。

 優れた経営者、優れたリーダーはなぜ即断即決できるのか、と著者は問う。

普段からその問題について考え続けているからだ。必要な情報収集も怠らない。常に感度が高く、アンテナが強力に立っている。その分野の専門家とのネットワークも豊富に持つ。信頼できる相談相手が何人もいる。最善のシナリオ、最悪のシナリオも常に考えている。どこを押すとどうなるか、競合の動きなども全部頭に入っている。そういう臨戦状態にいつもいるので、何が起きても驚かない。慎重でいながら正確、かつ電光石火ということが十分できる。(P.47)

 だが、これは経営者だけにできることではないという。契約社員やアルバイトの人でも、できる人は本当にできる。人間は本来みな頭がいいからだ、と著者は記す。

せっかくの能力に蓋をし、退化させている

 この文章を書いている私にも、「メモ」に関する著書があるが、そこで「なぜメモが必要になるのか」を解説した。それは、人間は忘れるようにできているからだ。

 人類の6万年の歴史のほとんどは、実はジャングルに暮らしていた。獰猛な動物や危険な生き物から身を守るため、人間は常に周囲に注意を向けておかなければならなかった。脳のスペースをしっかり空けておかなければいけなかったのだ。

 だから、忘れる。忘れないで注意散漫になると、命の危険があったのだ。

 そして赤羽氏は、そうした観察力だけでなく、そもそもの生存能力について触れている。サバンナでライオンに出会ったらどうするか。逃げるのか、味方を呼ぶのか、瞬時に判断が求められたのだ。その力が、そもそもあったというのである。

何が言いたいかと言えば、人間にはもともと素晴らしい判断力、思考力とそれに基づく行動力があるが、のんびりしていてもなんとかなるという甘やかされた環境、出る杭は打たれがちなムラ社会、周囲との摩擦を起こさない行動様式、慎重に考えるよう釘を刺してきた先輩たち、詰め込み式の学校教育、あるいは行儀よさを要求した保守的な親の躾、等々の複合的な影響でせっかくの能力に蓋をし、退化させているではないかということだ。(P.52)

 日本の学校教育では、記憶力や試験で良い点数を取るための瑣末なノウハウが重視される、と著者は記す。

 テストの点数は、頭の良し悪しや、本来の思考力・判断力の強化ではなく、限られた試験空間でのみ通用する特殊テクニックの習熟度合いで決まるのだ。

そのなかで培われた、自分はできる/できない、優秀だ/優秀でない、頭がいい/頭が悪い、褒められた/褒められなかった、といった過度の自意識により、本来持って生まれた能力を活かせず、がんじがらめになっている人がほとんどではないか。(P.53)

 もともと持っていた高い能力は、歪められた過度の自意識で活かせていないのである。加えて、考えるというトレーニングも受けていない。これでは、せっかくの高い能力が発揮できない。

 著者が「メモ書き」を工夫し続けてきたのは、こういうもったいない状況をなんとかできないだろうか、という思いからだったのだ。

なぜ自分が部下を怒鳴りつけてしまうのか

 瞬時に現状を認識をし、瞬時に課題を整理し、瞬時に解決策を考え、瞬時にどう動くべきか意思決定できる。そんな「ゼロ秒思考」が身につく最短、最良の方法が「メモ書き」だ。

「メモ書き」は、元々は私がマッキンゼーに入社した際、インタビューの仕方、分析のやり方、チームマネジメント等で役立つアドバイスを先輩から多数いただき、それを漏らさず書き留めよう、書き留めたうえでしっかり理解し自分の物としよう、というプロセスから生まれた。
ただ、数千ページ書き、多くの人にも書いてもらううちに、メモを書くと自意識を取り払い、素直にものを考えられるようになることに気づいた。1分という制約の中で、素早く迷わず、相当量を書き出すことが鍵だったと考えている。(P.59)

 本書の大きな特色は、この「メモ書き」の書き方について、極めて具体的に解説がなされていることだ。

 まず、A4用紙を横書きにする。右上には日付。左上にはタイトルを置き、1件1ページで4~6行、各行20~30字で書く。しかも、1分で書く。

メモ1は、ある大手流通業で、部下1000名ほどの地域本部営業リーダーが書いたものだ。非常に優秀な方で受け答えも普段は素晴らしいが、部下に対してはすぐに怒鳴りつけてしまう。「怒鳴りつけることで部下は萎縮するし、いいことは何もない」と本人は私に話してくれるが、部下に対してはついやってしまう。それをなんとかしようと彼が書いたメモだ。
彼は、最初に「どんな指導を自分だったら受けたいか?」というタイトルを思い浮かべ、6行書いた。いたってまともな内容だ。(P.60-61)
メモ1(『ゼロ秒思考』P.60より)メモ1(P.60)

 このリーダーは、なぜ自分が部下を怒鳴りつけてしまうのか、あまりわかっていなかったという。

 ところが、このメモを始めとして10数枚のメモを書いていくことで、気づきが生まれた。

 メモにかける時間は1枚1分が基本なので、合計10数分で長年悩んでいた自分自身のコントロールしがたい癖について深い理解を得ることができた。

 誰も言ってくれず、相談もできず、自分でもどうしたらいいかわからなかった自分の行動の理由に初めて気づき、改善の大きな一歩になったのだ。

「メモ書き」は1ページを1分以内、毎日10ページ書く。時間はわずか10分だ。費用はかからず、頭や感情の整理に即効性がある。(中略)行動上の課題を解決し、スタイルまで変更することができる。(P.63)

 メモ書きを3週間から1ヵ月続けると、頭にどんどん言葉が浮かぶようになるという。

 メモに書くよりも早く、言葉が湧いてくる。もやもやとしていたものが、言葉となって明確に浮かび、アイデアが続々と出てくるようになる。

 その先に「ゼロ秒思考」が待っている。

(本記事は『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。