どんな人でも確実に頭がよくなり、心も鍛えられる。しかも、誰でもどこでもできて、お金もほとんどかからない。そんなシンプルな方法を紹介し、ロングセラーになっているのが、『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』(赤羽雄二著)だ。著者は、メーカーを経てマッキンゼーで活躍。大企業の経営改革や経営人材育成などに取り組んでいる人物。その驚きのトレーニング方法とは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

ゼロ秒思考Photo: Adobe Stock

まだ言葉になっていない思考を言語化する

「考えをすぐに言語化できるようになった」「自己肯定感が上がった」「心の中のモヤモヤがなくなった」「すぐに行動できるようになった」……。

 そんな声が続々と寄せられているのが赤羽雄二氏による「ゼロ秒思考」という思考法だ。

 このメソッドは「メモ書き」によって、思考と感情の言語化をトレーニングするというもので、30数年にわたって改良と実践がなされ、すでに数十万人の人たちが効果を実感しているという。

 そして、「ゼロ秒」とは、そのトレーニングの結果として、「瞬時に現状を認識をし、瞬時に課題を整理し、瞬時に解決策を考え、瞬時にどう動くべきか意思決定できることだ」と著者は説く。それが実現できるようになるというのだ。

 まず必要なのは、正しい「メモ書き」を理解することだ。一般的にメモというと、見たり聞いたりしたことをメモすることを思い浮かべるが、そういうことではない。自分の頭に浮かぶことをメモしようとすること。それを言葉にしようとすることだ。

 実は頭に浮かんでいるものすべてが明確に思考されているわけではない。まだ言葉になっていない思考もたくさんある。だから、それを言語化するためにトレーニングする。

イメージや感覚を言葉にしようとする回数を重ねていくと、それほど抵抗なく形にできるようになる。言葉にすることへの躊躇がなくなってくる。すっと書けるようになる。意外に苦労せずに書いたり話したりできるようになり、相手の気分を損ねずに伝えることができるようになる。(P.23)

 ここまできて、ようやく本当の意味で、「言葉に慣れてきた、言葉を使える」という段階に近づく、と著者は記す。

頭がいい、仕事ができる人は、言葉への感覚が鋭い

 冒頭にこのメソッドに対する感想を記したが、つまりはこれができていなかった、ということだろう。

 考えをすぐに言語化できない。自己肯定感が上がらない。心の中がもやもやしている。すぐに行動できない……。

 その理由は、頭の中がぼんやりとしてしまっているからだ。自分の頭の中がぼんやりとしたままでは、思考もコミュニケーションもアウトプットもぼんやりとしたものにならざるを得ない。

 そしてそのキーワードとして著者は、「言葉の意味の揺らぎ」を挙げる。

思考の言語化においてもコミュニケーションにおいても、言葉の意味の揺らぎに関しては注意が必要だ。
一つひとつの言葉には、それぞれ中心的な意味がある。その地域、時代、コミュニティ・仲間内で誰もがだいたい思い描く、理解にあまりギャップのない意味がある。(中略)
また、「つらい」「悲しい」「愛してる」といった感情表現も、あいまいなようでいて、大半の人には比較的似たような意味を持つ。
(P.24-25)

 ところが、「全力」「責任感」「必ずやります」といった言葉の場合は、人によって意味がかなり異なる。

 それぞれの基準、価値観、背景、成功体験、失敗体験等に基づいてかなり幅があるからだ。

 それぞれが自分の基準で言葉の意味を決めており、それをあまり意識せずに言葉を交わす。

ということを踏まえれば、自分や他人の言葉が正確には何を意味しているか、何を意図して発言されたものか、意識的に言っているのか、それとも無意識なのか、をいつも考え、より深く理解することが必要になる。(P.26)

 言葉への鋭い感覚が問われてくるということだ。

 その場に合った的確な言葉使いをする人の話がわかりやすいのは、これがあるからだ。言葉への感覚の鋭さは、極めて重要なのである。

頭がいい、仕事ができるという時、実は言葉への感覚が鋭く、そのためにコミュニケーション能力の高さが光って見えることが多いのだ。(P.28)

頭に浮かんだことをすべて書き留めていく

 普通の人は、自分ではよく考えていると思っても、実際は「考えが浅く」「空回り」することが多い、と著者は記す。考える訓練がほとんどできていないからだ。

「考えが浅い」というのは、文字通り深く考えておらず、表面的にしか考えていない状況だ。考えていないので、「それはどういう意味ですか?」と聞かれると、すぐ詰まってしまう。自分の使った言葉がどういう意味なのか、相手にどう受け取られるのか、どう説明するといいのかを考えておらず突っ込みどころ満載だ。こういう場合、説明に窮する以前に、そもそも考え自体が間違っていることも多い。(P.32)

 思考やディスカッションが空回りすると、時間をどんなにかけても考えが前に進まない、といった事態が起こる。議論は深まらず、表面的なありきたりの案で止まってしまう。

 これは、日本では「深く考える訓練」「真剣に・本当に考える訓練」が、小学校から大学までほとんど行なわれてこなかったことが大きい。

 であれば、その訓練を行なえばいいのだ。

考えをどんどん深めていくこと、選択肢をあげ尽くし、それを評価して優先順位をつけることなどは、実はウェイトトレーニングと同じで、鍛えれば鍛えるほど力がつく。(中略)
このトレーニングの結果、飛躍的に頭が整理され、的確な言葉使いができるようになる。トレーニング次第で誰でもだ。学歴、職歴、経験、立場などにはまったく関係しない。もちろん性別や国籍、年齢にも関係ない。そうやって強化できることであるのに、知らずに空回りの思考をしている人がほとんどだ。
(P.34)

 いや、自分は十分に考えている、という人もいるかもしれない。

 だが、ひたすら考えを巡らせ、ああでもないこうでもないと考えるだけで思考が進むことはあまりない、と著者は記す。多くの場合、時間の浪費になる、と。

黙考して考えがどんどん深まればいいが、ほとんどの人にとってはちょっとしたアイデアや不安が浮かんでは消え、浮かんでは消えで、ほとんど形になっていかない。書き留めないので蓄積されないし、アイデアも深まらない。(P.35)

 そんな経験を持つ人も少なくないのではないか。だから「メモ書き」なのだ。考えたことをどんどん外に出していくのだ。頭に浮かんだことをすべて書き留めていく。考えのステップ、頭に浮かんだことを書き留めると、堂々巡りはほぼなくなる。書き留めたものが前にあると、前に進めることができるのだ。

 ただ、書き留める際に言葉を選ぼうとしすぎると、思考が止まってしまう。だから、浮かんだ言葉をあまり深く考えず、次々に書き留めていく。「メモ書き」こそが質の高い思考のための最適な手法なのである。

(本記事は『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。