どんな人でも確実に頭がよくなり、心も鍛えられる。しかも、誰でもどこでもできて、お金もほとんどかからない。そんなシンプルな方法を紹介し、ロングセラーになっているのが、『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』(赤羽雄二著)だ。著者は、メーカーを経てマッキンゼーで活躍。大企業の経営改革や経営人材育成などに取り組んでいる人物。その驚きのトレーニング方法とは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

ゼロ秒思考Photo: Adobe Stock

多くの人が実は「深く考える」ことができていない

「考えをすぐに言語化できるようになった」「自己肯定感が上がった」「心の中のモヤモヤがなくなった」「すぐに行動できるようになった」……。

 そんな声が続々と寄せられているのが赤羽雄二氏による「ゼロ秒思考」という思考法だ。

 このメソッドは「メモ書き」によって、思考と感情の言語化をトレーニングするというもので、30数年にわたって改良と実践がなされ、すでに数十万人の人たちが効果を実感しているという。

 そして、「ゼロ秒」とは、そのトレーニングの結果として、「瞬時に現状を認識をし、瞬時に課題を整理し、瞬時に解決策を考え、瞬時にどう動くべきか意思決定できることだ」と著者は説く。それが実現できるようになるというのだ。

 まず自覚しなければいけないのは、日本では多くの人が実は「深く考える」ことができていないということ。まえがきにはこう書かれている。

思い起こしてみれば、日本では小学校の時から、考える訓練、効果的に考えをまとめる訓練がほとんどなされていない。自分の考えをどのように深めていくのか、という教育は若干の作文の時間以外ほとんどなされない。授業中の発言も、教師からの質問に答えることが大半だ。米国のように意見を戦わせることもほとんどない。ましてや、考えるプロセスや悩みへの対処法などは到底カバーされていない。(P.2)

 一方で「本来的にみな頭がよい」と著者は記す。

 意見も言えるし、適切な判断力もある。ところが、「驚くほど多くの人が自分に自信をもてず、せっかくの能力が宝の持ち腐れになっている」というのだ。

頭に浮かぶことを次々とメモに書くだけ

 思い当たる人は、少なくないのではないだろうか。

 何かを考えようとしても、考えが深められない。余計なことが次々に頭に浮かんでしまう。小さなミスにクヨクヨとしてしまったり、人間関係に思い悩んだりする。自分の考えが整理できない。アイデアがなかなか浮かばない。文章を書こうとするときに立ち止まってしまったり、企画書を作るのに何日もかかってしまう……。

 本来は、そんなことにならない能力が備わっているのに、である。

これはあまりにももったいない。心の整理をし、考えをまとめ、深める方法があったら、誰でも別人のように成長できる。仕事ができるようになる。コミュニケーションの悩みも減り、不必要な苦しみから少なからず解放されて生きていくことができる。(P.2-3)

 その効果的な方法が、「頭に浮かぶことを次々とメモに書くこと」なのだ。

 これだけを見ると、たったそれだけで何かが変わるのか、とも思えるが、このメソッドの驚くべきところは、この「頭に浮かぶことを次々とメモに書くだけ」という方法が極めて具体的、実践的、さらには緻密にまとめられていることだ。

 何をどうすればいいか、いや、どうしなければいけないのか、がとにかく詳しく展開される。だから、なるほど、こんなふうに考えればいいのか、ということが誰にでも理解できるのだ。

ただ、ノートやパソコン上ではなく、A4の紙に1件1ページで書く。ゆっくり時間をかけるのではなく、1ページを1分以内にさっと書く。毎日10ページ書き、フォルダに投げ込んで瞬時に整理する。それだけで、マッキンゼーのプログラムでも十分に教えていない、最も基本的な「考える力」を鍛えられる。深く考えることができるだけでなく、「ゼロ秒思考」と言える究極のレベルに近づける。心のコントロールの達人にもなり、ストレスや不安、恐怖が軽減される。前向きに明るく生きることができるようになる。しかも、お金はほとんどかからず、わずか3週間ほどでかなりの効果を体感できるはずだ。(P.3-4)

思考は言葉によってなされる。感情も言葉にできる

 この文章を書いている私には約50冊の著書があり、中にはメモをテーマにした『メモ活』(学研プラス)がある。文章を書く仕事をしているというと、パソコンの前でうんうん唸って書いているイメージを持つ人が少なくないが、実際にはまったく違う。

 その前のプロセスが、約8割を占めると私は考えている。それは、文章の素材を集めたり、企画を考えることだ。

 そのために「メモ」は欠かせない。だから、常にメモを取る。いろいろな場で取る。だが、それは「忘れないため」という目的が大きい。

 一方で、著者はこう投げかけるのである。

まず、思考と言葉の関係について、強く意識してもらいたい。「思考は言葉によってなされる」ということ、そして「感情も言葉にできる」ということだ。そのうえで、頭に浮かぶイメージ、感覚を言葉にしてみよう。(P.12)

 実は人間は日々、いろいろなことを考えている。しかし、それは浮かんでは消えていってしまうのだ。だから私はそれもメモを取るわけだが、実は言葉になっていない思考もあるのだ。

誰だって、起きている間、いつでも何かを感じている。何かを考え、なんらかのイメージが浮かんでいる。ただ、それがすぐ消えてしまう。言葉を認識する以前に、もやっとした感情のまま、それが何かを特定しないまま消えてしまう。いったん忘れるが、もやもやの原因が解決するわけではない。もやもやが自然に消えるわけでもない。なので、気分はどんどん滅入ってくる。(P.16)

 こういうものが心にたまると、気分が重くなる。だから、著者はそれを言葉にしてどんどん書き出していくことを勧めるのだ。もやもやは外に出してしまえばいい。

 また、一般的にメモというと、「それなりに言葉になったもの」を取るイメージだろう。私自身がそう考えていた。しかし、著者は「そうでないもの」も外に出してみよ、というのだ。

 なぜなら、誰かに見せるためのメモではないから。書いたからといって、それが現実化するわけでもないし、何か悪いことが起こるわけでもない。

 大事なことは、頭に浮かぶイメージや感覚を外に出してみようとすることだ。それが大きな効能を生む。

イメージや感覚を言葉にすることに慣れてくると、だんだん自分の気持ちや思っていることをあまり苦労せずに表現できるようになる。言いたいことがすぐ出てくるので、ストレスがない。言葉選び等にあまり迷わず、書いて表現することができる。続けていくと、さらにスムーズに表現できるようになる。(P.19)

 うまく考えを深めたり、コミュニケーションができなかったりするのは、言葉を自由に、的確に使うことができないからだ。だから、まずはそのトレーニングから始める必要があるのだ。

 誰に見せるメモでもない。まずは頭の中にあるイメージや感覚を外に出していく。そこから始める必要があったのだ。

(本記事は『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。